少ない時間の中の逢瀬はふたりにとってとても大事なものだ。
こちらが無理を言って月を引き止める、そういう理由をつけて恋人同士の時間を味わうのが常だった。
今日も寝室でふたり、外界からの明るさのみを頼りにお互いの熱を探る。
「なぁ竜崎」
長い長い口づけの後、月が口を開く。
「はい、何ですか?」
これからベッドになだれ込もうというときに、無粋だとも思ったが律儀に返事を返す。
途中で会話を切るのは彼の嫌がる一つなので、放ってはおけない。
夜神月は恋人の顔では無く、普段の夜神月の顔で、まっすぐにこちらを見つめる。
「君との関係が遊びだと言ったらどうする?」
一瞬息が止まるかと思った。
ポーカーフェイスを身につけていてよかったと心底思う。
人の心理を読む仕事に就いているからか、自分を暴かれるのは好きでは無い。
「…そうですね」
ゆっくり言葉を吐く。
言葉を繰ると、気持ちが冷静になってくる。
さて、月は何と言ったか。
遊び、だと。私との関係が。
言葉を選び、ゆっくりゆっくり口を動かす。
「私はそれでも構いません」
言い切ると、彼が目を見開く。
それには触れず、言葉を続ける。
「遊びということは、今貴方が興味があるのが私ということですから、それに月くんを縛っておけるとは思えませんし」
語尾が小さくなって行ったのは、何も悲しくなったなんてことは無かった。
「月くん?」
彼が黙ったまま俯いたから。
色素の薄い長めの髪に隠れて、表情が読み取れない。
「帰る」
すいと立ち上がり、ベッドから体を降ろした。
意思の変える気が無い声が、凛と響いている。
「月くん」ともう一度呼んでみたが、返事をする前に部屋から消えてしまう。
ガチャリとドアが閉まる音がやたら大きく聞こえた。
「……遊びでも構わないですよ」
誰もいなくなった部屋でひとり呟く。
彼の言葉には戸惑ったが、言ったことも嘘では無い、本音だった。
遊びじゃない方が良いに決まっている。当たり前だ。
しかし夜神月の気持ちがどうあろうともう関係無い。
離すつもりは毛頭無いのだから。
貴方はもう逃げられない位置まで来てるんですよ、月くん。
−END−
二人の考え方の差。
遊びでもいいって本気なのと疑ったり、遊びでも離さないって決意したり。
2004.12.15
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