「ケーキが食べたい」


深夜、キラ捜査に没頭していた刑事、僕を含め帰りの命を受け重い体を引きずるように部屋を出る。
疲労の色は消えること無く父さんたちを老けて見せた。
疲れを覚えたのは何も刑事たちだけでは無い。
キラとして読まれるわけにもいかずミスをしないようにと心掛け捜査に挑むのは非常に体力も精神力も奪われていくのだ。
ジャケットを手にし、腰を上げた。
竜崎をちらりと見るとやや不機嫌そうにむくれている。
そして小さく呟いたのだ。


「ケーキが食べたい」


今の時間を考えてもケーキが出て来るとは思えない。
彼のお墨付きであるパティシエだって眠りに付く頃合だ。
本人もそれをわかっている上で口にしたのか、それから電話で命令するわけでも無く椅子から腰を上げるわけでも無くただ口を尖らせ眉間に皺を寄せた。



父さんの車に乗り込んでからも、話に相槌を打ちながら考えていた。
ぼうっと流れる街を見送っていると一つの明かりが目に止まる。

「父さん、ごめんここで止めて」

車は声に遅れて数秒、音を立てて停車する。
遅いからと親の顔をする父に無理を言って、降ろしてもらった。
小さくなる車を見送り、明るい光の中へ向かう。

恩を売りたいとか、探りたいとかでは無く、ただ……

「ケーキが食べたい」

言葉が頭に残ったから。
それだけ。




小さな袋を手にして道を逆上る。
高い物では無いけれど、我慢してもらって。

「ケーキが食べたい、か」

甘党の彼が思い浮かぶ。
違う言葉が早く聞きたくて歩調を少し早めた。










   −END−


好きとかじゃない。そんなんじゃない。
だけど何かしてあげたい。

2004.12.15