「竜崎、目を細めるな」
丸まっている背中を更に縮めて画面に見入っていた竜崎に月が隣りからぴしゃりと注意する。
「しかし、最近見えにくいんです」
目を擦り何度か目をパチクリさせ、もう一度見やる。
真っ黒な目はしばらく大きく見開かれていたが徐々にまた指摘前の状態に戻る。
「眼鏡でもすれば?」
「眼鏡?私が?嫌ですよ」
率直にポツリと漏らした月に竜崎は心底嫌そうに顔をしかめた。
「でも見えないなら仕方ないだろ」
確かに見えにくいと言える状態なだけに、返す言葉が無いようだ。
「でも眼鏡なんて今までしたことありません」
「掛けてみたら?」
あっさりと答えを返す月に押され、ほぼ強制的に電話を掛けさせられる。
溜め息を吐きながら言葉を並べる。
「ワタリ、一番度の弱い眼鏡を持って来てくれるか」




「ふうん、いいんじゃないか?」
一人うん、と納得する月。
竜崎はというと、薄いガラスの銀縁眼鏡の中からきょろきょろと周りを見渡す。
「どうだ、見えやすいか?」
じっと竜崎の目を覗き込む。
「………見えやすいことは見えやすいですが」
椅子に乗せていた足に力を入れ、体を浮かす。
あっという間に唇は、重なる。
月は驚いて、目を見開く。
「キスがしにくいのでやはり嫌です」
不機嫌そうにそう言い放つとするりと眼鏡を外し、もう一度顔を寄せる。
「…馬鹿」
真っ赤な顔で悪態を吐いた月だったが瞳は優しかった。










   −END−


視力なんかより貴方とのキスが大事。

2004.12.7