"死神の翼だったら取引も考えた"


死神の目についての話を当の死神と話しているとき、ふとそんなことを漏らした。
本当にそんな物があるなんて思わなかったから言えた言葉だ。
『………』
リュークはぎょろりとした目を引ん剥いたまま黙り込んでいる。
呆れているのか、何か考えているのか。
「冗談だ」
笑いを含み言ってやる。
『え、冗談なのか?』
返ってくる返事は予想外だった。
きょとんとした声で言われたのは聞き返しの言葉。
「当たり前だろ、何でそんなこと言う…」
言葉を続けようとして固まってしまった。
それは、有り得ない物を自分の背に見つけたから。
『ら、月…』
死神は真っ青な顔を更に青にし、後ずさる。
「リューク…何だこれは………」
真っ黒な大きな大きな、翼。
意思と繋がっているのか、動けと命じるとバサリと動く。
人間である自分にはけしてあるわけでも無いもの。
『いや、ら、月……だから』
怒りを溜めた声が腹の底から生まれる。
言葉を絶え絶えに出していたリュークは、そのまま追いやられるように壁へ壁へ後ずさり。
壁に溶けるように吸い込まれている。
ハッキリ言うと、外に。
「あ、待てこら!」

逃げた。




「リュークめ…!どこ行った……!!」
気持ちのまま窓から飛び出し、追いかけたはいいものの、頭が冷えると同時に少しずつ今がどういう状態なのか分かってきた。
急いで着地の準備をする。
近くの公園へ見た目ほど重くない羽をゆるりと下ろす。
「こんなところ誰かに見られたら…」
見られるわけにはいかない。
こんなところを見られては、死神がいると証拠を見せているようなもの。
調度、地上に足が着くか、着かないかのところ。
人がいるなんて思っていなかった。
よりにもよって。


「月くん……」




「………竜崎」
コイツに会うなんて。
最悪中の最悪。
相手はあのLだ。
これではもう「キラだ」と言っているようなもの。
「貴方…何故空を飛んで………その羽…」
流石のLも、うろたえながら羽を指差し言葉を紡ぐ。
馬鹿死神め。どうしてくれる。
良い考えも浮かぶわけが無く、もういっそのこと目の取引までしてしまおうかとまで思い至った。

そのとき。




「やはり貴方は天使だったのですね!」




竜崎が声を張り上げて言い放つ。
意味がわからないその意味に唖然としてしまう。
「私の予想通りでした!」
手を握られながら声色高々に言われてしまい、こちらが戸惑う。
どういうことなのか事態が掴めずにいるうちに、更に事態は進まされていた。

そう、手足をすでに拘束されていた。

羽さえも。



それに気付くのは、彼の車に乗せられた後。










   −END−


初めての翼でも月なら自由に操れる。

2004.12.3