差し出したのは一つの箱。


「竜崎これいる?」

それはどこにでもある手のひらサイズのもので。
「月くん未成年ですよね」
見たことが無い銘柄だったが、間違いない。
「うん、まだそうだけど」


「煙草は駄目だとわかっているでしょう?」


月は、フと息を吐くと笑いを浮かべる。
「はは、やっぱり引っ掛かった」
「はい?」
「開けてみなよ」
緩く誘われ、それに眉を寄せながらも従う。
蓋を開いてみるとやはりと言うか。
白い棒が綺麗に陳列していた。
しかしあの特有の嫌な匂いはせず
「……甘いですね」
甘い匂いが詰まっていた。
月は一つ取り出して見せる。
「タバコチョコレート。おもしろいだろ」
箱だけでは無く、そのものでさえ本物に似ている。
月が端を少し捲ると、彼の言う通り中には茶色のチョコレートが隠れていた。
「初めて見ました」
彼からその偽の煙草を受け取るとしげしげ眺める。
パッケージは本物そのものだ。
「竜崎が騙されただけで満足だし、それあげるよ」
「ありがとう……ごさいます」
月が買ってきてくれた、という事実に騙す騙されない云々喜んでしまう。
火のつけることができない煙草に噛り付くとふわりと甘い煙が漂った気がした。



そんなことがあった捜査本部。
しばらくタバコのようなものを囓っている竜崎の姿が見られるようだった。
しかし誰も何も言わなかったのはチョコレートだと分かっていたからでは無い。


竜崎ならタバコさえも食べそうだと。










   −END−


もはや普通の人間じゃないことは理解してるけど。

2004.12.2