部屋に入ってきた月が突然目の前にビニールの袋を差し出した。

「これ、あげるよ」



片手収まる小さな袋に小さなものが3つ4つ。
竜崎は光にかざすように眺める。
「これは……種ですか」
横に振るとカサカサと音が鳴る。
「そう、ヒマワリの種」
黒と白の種。
それはわかるのだが。
「私にどうしろと」
どんな用途でこれを差し出したのか読みきれず竜崎が問う。
月はそれをわかっているのか、何でも無いかのようにさらりと答える。
「食べてもいいよ」
彼なら何でも食べると思っているのだろうか。
竜崎は少し眉間に皺を寄せる。
「育てろとは言わないんですか?」
種をあげるというのは一般的に育てるためでは無いのか。
少し考えた月は、ククと笑う。

「…竜崎、続か無さそうだし」


確かに。
彼の言う通り何かの面倒を見るというのは竜崎の性には合わない。
しかしあからさまに言われてしまうと負けず嫌いの血が疼く。
「失礼ですね……私だってやればできます」
「ハイハイ」
笑いを含んだまま、言葉を流し資料に目をやる月。
竜崎の目を据わる。
「そこまで言うなら余程自信があるんですね」
「悪いけど自信はあるよ」
どうせ枯らせてしまうだろ、と続ける。
「では見事育ったときはどうするんですか」
そこまで馬鹿にされるのは気に食わないのは竜崎。
喧嘩半分の落ちたトーンで問う。
月は目を閉じ、鼻で笑う。




「結婚でも何でもしてやるよ」










「竜崎最近何やってるんですか?」
移動したばかりのホテルの一室。
水の入った小さなジョウロを片手に茶色の鉢と対面して座り込んでいる。
最近続くその不思議な行動に松田が首を傾げた。
「さぁ…何でも花を育ててるとか」
「へぇ…花ぁ……」
今までに無い竜崎を見てやはり首を傾げる刑事。
しばらく上機嫌で鉢に向かう竜崎の姿が見られたという。










   −END−


ひまわりって結構簡単に育ちます。

2004.11.28