今日集めたばかりの資料をテーブルに置いた松田は広げられた紙の一番下に大きな茶封筒があるのに気付く。
「竜崎、何ですか?封筒」
ひょいとそれを摘みあげる。



「それに触らないでください!」



珍しく声を張った竜崎に驚いてテーブルに落としてしまった。



「「あっ」」

封のしていなかったそれはいきおいよく中身が散らばる。
松田は真っ青になった。
「す、すいません!すぐに片付けま…あれ?これ…」
散らばったのは書類では無かった。
大量の写真。
しかし捜査関連の写真では無かった。
どの写真を見ても同じ人物。
「これ月くんですよね?夜神局長の息子さんの。」
封筒の中身は夜神月一色で。
寝ているところもあれば制服姿で朝食を食べているものまで。
しかしどれも視線が外れている。
「何でこんなものが…?まさか竜崎、盗さ…」
「あくまでキラじゃないかという判断の上ですよ」
キッパリそう言う竜崎は微塵も自分に非は無いと言っているようだった。
家に監視カメラを設置する人間なのだから盗撮もたいしたことでは無いのだろうか。
天才というのはわからない、と思いながら松田は手に取った写真に目を向けた。





「うわぁ…可愛いなぁ月くん」

夜神月という人物は一般よりずば抜けて綺麗という部類に入る。
しかしこの写真には尾行の時に見られた普段の大人らしい落ち着いた表情の物もあれば珍しくまだあどけない顔もある。
「でしょう?」
竜崎はさも自分のことのように誇らしげににやりと笑った。
「これなんか絶妙ですね…!!」
松田は興奮して月の起きぬけの写真を手に取った。
「でもこんなことしてるって局長知ってるんですか?」
監視カメラを取り付けるときにもあんなに苦しそうだったのに、自分の息子の写真が此処にあることを知っていて平常心でいられるか?
それも竜崎の場合、ただ捜査のためだけだとは思えない。
「知りません」
ケーキにフォークを突き刺しながら平然と口を開く。
「うわ、じゃあまずいんじゃないですか?!」
「バレなきゃいいんですよ」
しれっと答えて半分以上欠けた残りのショートケーキを口にする。
「じゃあ黙っててあげますから写真一枚くださいよ」
「嫌です」
もしかしたら一枚くらい、と考えた松田の浅い読みはハッキリとした口調で崩される。
「いっぱいあるんだからいいじゃないですか!」
「あなたにあげる写真は一枚もありません」
「じゃあ焼き増しでいいですから!ネガあるんでしょう?」
竜崎のことだ、ネガを軽く処分なんてしない。
「私以外の人間に月くんの写真はあげるつもりはありません。焼き増しなんて以っての外です」
写真を指先で集め、茶封筒にせっせと戻している。
「竜崎〜」
情けない声を出し、茶封筒に入れている竜崎の手を掴んで揺さぶった。










「お前達……」
夜神月の父、夜神総一郎は運良く聞いてしまった話に痛む胃を押さえながら真っ青な顔で立っていた。
二人は今にも倒れそうな顔で立っている局長を見て、嫌な汗が垂れるのを感じた。



















後日、写真は父親の手によって消されることになる。
もちろんネガも一緒に。










   −END−


息子は私が護る。

2004.09.14