「竜崎、ゴミはゴミ箱へ捨てろと言ってるだろ」


チョコレートのゴミがカサカサと床に散らばる。
直すつもりも無い竜崎のことをわかっているのか。
月は声を掛けるだけ掛け、片付けてやっている。
そんな様子は捜査本部ではよく見られていた。
自分で動こうとしない竜崎の面倒を見るのは月くらいしかいないからだろう。
相変わらずな二人を近場で眺めていたスーツの男。
松田が笑いながら声を掛ける。
「二人ってあんまり友達って感じしないね」
その言葉に月と竜崎はきょとんとしている。
「月くんがお兄ちゃんで、竜崎が弟みた…」
言葉を続けようとしたとき、襟元をいきおいよく掴まれる。
「ヒッ!」
思わず情けない声が漏れる。
竜崎の手がギリとスーツの首元を押し上げていた。


「恋人みたいですか?そうですか松井さん」


感情を含んでいないいつもの声に聞こえるが、台詞が脅している。
その上真っ黒で深い目がよりその脅しを強化させていた。
「そ、そうですネ」
上ずった声で頷く。
竜崎に逆らうといいことなど一つもないということはよくわかっていたからだ。
「らしいですよ、夜神くん」
松井の服を迫り上げていた手を離し、あからさまに機嫌の良さそうな口調で月に向ける。
口にチョコレートを放り込むのも忘れずに。
「……そう」
松井は床にへたり込み、当の本人の月は興味無さそうに返事を返す。

こんな弟も恋人もいらない、そんなことを考えながら月は竜崎を見やる。
そしてまた一つ増えたチョコレートのゴミを箱へ捨てるだけだった。










   −END−


兄弟でも恋人でもどっちでもいいよ。
事実じゃないんだから。

2004.11.20