膨大な資料の一部をペラリと夜神が捲る。
私はというと、駅や街に仕掛けられている監視カメラの映像を繰り返し何度も見ている。
もう一時間になるというところだろうか。

「流河はテレビを見るのか?」

画面に目を向けている私に声を掛けてきた。
色々な会話のパターンが頭に浮かぶ。
「…それなりには。何故ですか?」
しかし結局選んだものは差し当たりの無いもの。
下手に読みすぎるとボロを出す。
それに夜神との会話も楽しみたい、というのも本音だったりする。
「いや、仮の名前にしても流河旱樹と名乗っているくらいだろう?」
「はい」
今回の捜査では竜崎と名乗っているが、外では流河旱樹という名を持っている。
もちろん本当の名前では無いが。
それがどうしたと言うのか。
「流河という名はテレビを見ているときに決めたんだろうと思って」
「いえ、これは…」
どのチャンネルに変えても出ている芸能人。
テレビを見ていて彼を知るのが一番手っ取り早いだろう。
「何?」
しかし、私が
「……流河?」
私が、彼の名を借りることに決めたのは…



「有名な方と聞いたので彼の名前にしたんです……恐らく」

言葉を濁す。
言い切ってしまってはもしかしたら…
そんなことを常に考えてしまうのだ。
「恐らく、ね」
夜神は少しおもしろく無さそうに目を伏せる。
そして次にはいつものような笑顔を浮かる。
作られた物だとわかっても、美しいその顔に見惚れてしまう。
その後、夜神はその話題には触れなかった。



本当は監視をしているときに夜神月が見ていた番組。

貴方が目を向けていた人物だったから。

なんて言ったら、月くん貴方はどうするんでしょう?










   −END−


全ては貴方から始まった。

2004.11.19