「竜崎、こぼしてる」




「汚れたらちゃんと拭け、子供じゃないんだから」




「お菓子を食べ過ぎるな健康に悪い」







綺麗好きで世話焼きの夜神月は私の身の回りをかいがいしく面倒見てくれる。
ブツブツと文句を言いながらもけして手は休めないし捨て置くことも無い。
さぞかしいい嫁になるだろう。
彼と私の関係はというと冷めたもので、いくらこちらが好きと言っても受け入れようとはしない。
しかし嫌いな人物にこれほど気をかけるだろうか?
実は、本当のところは月くんは私のことを好きなんじゃないのか。
考えていても仕方ない。
ここは一つ、男らしくストレートに聞いたほうがいいだろう。
「月くん」
呼びかけると彼は、小さく首を傾げ「何だ?」と返す。
口に当てていた親指をゆっくり放し、口を開いた。






「月くんは私の何なんですか?」






月くんが固まっている。
しかし答えを急かすのもどうかと思うので、じっと出方を待つ。
すると見開いていた目は徐々にキツさを増して。
更に眉は皺を刻み、顔は赤くなり肩は震えている。
どうしたと言うのか?



「迷惑なら迷惑って言えばいいだろ!」



手に持っていたタオルをこちらに投げつけ声を張り上げる。
月くんの突然の態度に呆然としていると、彼はいつの間にか背中を向けていた。
「ちが、そういうことじゃなくて……」
小さくなっていく後ろ姿に、慌てて声を掛ける。

いきおいよく閉められたドア。
彼を引き留めるのに上げた腕は行き場が無く、止まったまま。


「何がいけなかったのか」


小さく呟いた言葉に返してくれる人物は誰もいなかった。










   −END−


難しいものだ。

2004.11.12