テーブルに出された甘味を竜崎が食べるのはいつもの風景。
ひょいひょいと口の中に消えていくソレを、月はじぃと見つめながら呟いた。



「竜崎意外に器用だな」



「は……どうしてですか?」
竜崎も突拍子も無い言葉に口をポカンと開けた。
月は長い指で軽く指し示す。
「舌でヘタを結べてるじゃないか」
指が指す方を追うと、先程から食べている季節外れの赤い果実。
さくらんぼ…だった物の残骸。
その二つのヘタは、綺麗に円を描いて絡み合っている。
「そんなものですかね」
竜崎はその枝を見つめて首を傾げる。
別に自分で器用だとは思ってはいないし練習をしたわけでは無い。
遊んでいる内に気がつけばできていた、そんなものだ。
「僕にはできないよ」
「やってみてはどうです?」
ガラスの器を指先で少し押し、勧めてみる。
器用な月なら簡単にできるかもしれない。
その口の中で行われるだろう舌の動きを想像すると堪らなかった。
「僕はいいよ」
月は軽く首を振って笑う。
竜崎は少し口を尖らせた。
しかし、次に何を考えたのか、いやらしく目を細める。


「いえ、遠慮なさらず、手伝ってあげますから」


竜崎はガラスの中に納まっている対になった綺麗な果実を指で摘む。
それを口に含み、椅子から足を降ろす。
「え?」
突然覆いかぶさってきた竜崎の行動に、呆ける月。 まだ何事か掴みきれて無い彼の顔に唇を近付けた。
「ん…ッ」
鼻に掛かった声が口内に響く。
その声さえも舌と一緒に飲み込んでしまう。











「ほら、できました」


二人の間の透明な糸に絡まるように二つの枝が輪を描いていた。
息を荒げ、呆然としていた月は状況を飲み込むと眉を吊り上げ、顔を染める。

「この馬鹿!!」

これまでに無く赤い顔の月を見て、竜崎は満足そうに笑う。
二人の間にあったソレはゆっくりと床に滑り落ちる。

竜崎の手の中にはすでに新たな桜の果実。
月はまだ気付いていない。










   −END−


結ばれたのは果たしてそれだけなのか。

2004.11.11