今日は午後からの授業だった。
鳴り響くチャイムに生徒たちが一斉に立ち上がり、疲れた声を漏らす。
足早に教室から出て行く者や、まだ談笑している者。
僕も特に学校に用が無いので、帰りに準備をする。
椅子から腰を浮かせるとカバンにノートと教科書を入れた。
「酷いです月くん」
横からポツリと声が聞こえる。
「え?」
顔を向けるとそこにはのっそりと立つ見慣れた男の姿。


「今日は私に付き合ってくれるという約束だったじゃないですか」


ポケットに手を突っ込んで背を丸めて立っている。
Lと名乗る男、竜崎だ。
クマの付いた目を不機嫌そうに細めた。
「……そうだっけ?」
約束、なんて言葉に聞き覚えが無かったので首を傾げてしまう。
竜崎は更に表情を曲げる。
「そうです。忘れてしまったんですか」
もう一度記憶を辿らせる。
しかしどう考えても覚えが無い。
午前中に、もしくは午後の授業中にどこか行くと言っていたのか。
それともキラの捜査本部に行くと言っていたのかもしれない。
どちらにしろLの名前を知るチャンスを忘れるとは思えなかったが。
「ごめん、覚えてない」
記憶に無いのだから何とも言えない。
素直に謝ると、竜崎は口を歪ませた。
「いいですよ、もう」
息を吐いてから諦めたように言い放つとこちらに背を向けた。
ゆっくりと教室から去っていく。
しばらくその姿を見送っていたが、急ぎ足で足を進める。





歩く彼の少し後ろに付いて歩く。
「流河?」
名前を呼んでも無反応を決め込んでいる。
どう考えてもこちらに非があるので機嫌を損ねても仕方ないのだが。
「本当に覚えてなかったんだ」
横から顔を覗き込んで話しかける。
流河の歩調は緩むことは無い。
何の反応も示さない彼に流石に少し苛立ってくる。
「いい加減謝ってるだろ?」
少しキツク放った言葉に流河の足が止まる。
それに合わせてこちらも止まった。







ちろりと目を向け。伺ってくる流河。
「じゃあ新たな約束してください」
不機嫌そうな顔は少し緩んでいるように見える。
「何だ?」
機嫌を損ねないのに越したことは無い。
それで満足するなら約束くらいしてやらないことも無いだろう。
口をゆっくり開く流河の言葉を待った。














「私と婚約してください」













「あ、月くん待ってください!どこへ行くんですか!」


後ろから声が聞こえてきたが、足早に進む歩調を緩めることは無かった。










   −END−


同じ約束ならこっちの方が…

2004.11.08