竜崎から出される言葉は同じ。
「好きです」
僕はただ笑うだけ。
そんなもの欲しいわけじゃない。
父さんが家に帰って来てから、竜崎が来いと言っていたと伝えられた。
夜遅くなのに今日で無ければいけないのかと不機嫌になったが。
ジャケットを羽織り、必要な物だけ持って家を出た。
夜の街を彼のいるホテルへ行き急ぐ。
小奇麗なドアを開けると一人掛けの椅子に座っている竜崎が見える。
「ぼくに何か用か、竜崎?」
入ってきたことに気付いてなかったのか。
恐らくワザとだ。
声を掛けてもこちらを見ようとしないのは。
「………」
黙ったまま、締め切ったカーテンを見つめている。
いつも何を考えているかわからない無表情が少し崩れている。
「体調が悪いのか?くるしそうだけど」
目を更に細めて口をぎゅっと噤んでいる。
やっとこちらを向いた竜崎。
「違います」
しかしすぐに視線を逸らした。
「心配させるなよ、もう」
言葉を掛け、軽く笑う。
実際心配なんてしているつもりは無い。
どうせ不貞腐れているだけなのだから。
原因はわかっているが。
「月くん、何故答えてくれないのですか?」
やはり、と内心呟く。
しかしそ知らぬフリをして振り返る。
「何を?あぁキラと自白しろってことなら無理だよ」
彼が望んでいるのはこういう言葉では無いのだろう。
キラの話をするのに呼び出すのなら昼間にしているはず。
それを避けたというのは別の話。
「違います、そうでは無くて…」
慌てて僕を見る竜崎。
珍しく言葉を詰まらせる。
「私は何度も貴方に告白しています、それを貴方は流したり無視をしたり……」
若干辛そうに聞こえるのは気のせいでは無いだろう。
Lという人物が僕に弱味を見せていいのか。
「竜崎からの告白?そんなもの聞いたこと無いよ」
さらっと返すと竜崎は大きな黒い目を少し見開く。
「いつも好意を寄せていると言っているでしょう?」
冷静な口調。
しかし声が少し低め。
聞いたこと無い、という言葉が余程辛かったのか。
つい笑いが零れそうなのを堪える。
「あぁ。それは人間として、だろ?僕も尊敬はしているよ」
にこりと笑って僕らしい返答をする。
竜崎は困ったように口を歪ませた。
「そうじゃありません、好きだと…」
慌てているのか視線を上げた。
真っ直ぐな目をしていている。
「何回も言わなくてもりかいしてる」
彼の言葉を切るように発する。
「す、みません」
僕の口調に少し焦りながら謝る。
別に竜崎が悪いわけじゃないと思うが。
謝る必要は無いのに。
「それが何だって…?」
くすりと笑って問うと、彼はムッとした表情を見せる。
流石に頭が冷静になったらしい。
「……聡い貴方ならわかりますよね?」
目を細め、いつもの彼の口調に戻る。
「とうぜんだね」
それを笑って返す。
「………」
竜崎は先程までの慌てぶりが無かったように口を紡ぐ。
少し睨んでいるように見えるのは間違いでは無いだろう。
黙り込んで不機嫌さを出している竜崎。
「ようってこれだけ?なら帰るけど」
彼の椅子に掛けていた手を下ろす。
背を向けてドアへ足を進める。
「ら、月くん……!」
後ろから竜崎の張った声が聞こえる。
そこで足を止めた。
「愛しています」
やっと聞けた。
それを聞きたかったんだ。
全く、鈍感だというならお前の方だろう竜崎。
少しキツク当たり過ぎたか、と苦笑を浮かべたが。
でも仕方なかった。
振り返った僕が見たのは竜崎の必死な表情。
それもまた嬉しくなり、今までで一番の笑顔を向けてやる。
「 」
竜崎が目を見開き、それから床を蹴る。
彼の伸ばした手。
何秒後かにはきっと体が捕らえられる。
予想ができる彼の行動に目を細めて笑う。
あとは10個の言葉の感情にまかせて。
思考はそこまで。
−END−
今まで読んでくださってありがとうございました。
これで50題終了です。
最後はこれだと決めておりました、実行できて嬉しいです。
50個、色んな話がありますが少しでも楽しんでいただけると光栄です。
あ り が と う
2004.10.28
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