いつもならソファに座り、報道やキラ関連の写真を眺めている竜崎は寝室のドアの前でワタリに体を支えられていた。
時々ふらつく足は覚束なく歩みを取っている。

「竜崎、おとなしく寝てなさい」

「いけません、この大事なときに私が寝てるなんて」

確かに一刻を争うことだと言えるが、そのために体を壊しては元も子もない。
「風邪をひいているときくらい休みましょう」
ガクリと膝が折れた竜崎を慌てて起こした。


「それはできません」


体を気遣うワタリの言葉をバッサリ切り捨てる。
こういうことは慣れているのか、少し溜め息を吐いて竜崎の歩行を助ける。
「では竜崎、せめてお薬だけでも飲んでください」














「…嫌です」



「竜崎」
折角譲歩案を出したというのに、竜崎は困ったようにポツリと呟く。
それにはさすがにワタリも呆れた声を出す。
「私が薬を嫌いなのはワタリが一番よく知っているでしょう?」
「しかし竜崎…」
「飲みません」
断固として意見を譲ろうとしない竜崎にワタリが口を開きかけたその時、


「何だ竜崎。薬嫌いなの?」


いつ来たのか、ホテルのドアにもたれるように月が腕を組んで立っていた。
「月くん…」
「へ〜薬が苦手なんて子供みたいだね」
荒い息で呆然と見つめる竜崎に歩み寄りながら、くすくすと口の中で笑いを漏らしている。
「子供……?」
言われたことが無い言葉に、眉を寄せている。
そんな彼に気を使うこと無く、竜崎の目の前に立ち鼻で笑う。


「竜崎って意外とー…」


呆れたようなしらっとした目を向ける。
夜神月は愛する人で、恋人に格好悪いというあからさまな目で見られ気分がいいわけない。
負けず嫌いという性格ももちろん含んでいるが。
竜崎はカッと頭に血が上るのを感じた。







「"意外と"なんだって言うんですか!いいです、飲みます!飲んでみせます!ワタリ、薬!!」







ヤケになったようにそう言い放つと息を荒げながらぺたぺたと寝室に戻って少し乱暴にドアを閉めた。
二人は去っていった扉をしばらく見つめていたが、やがてお互い目を合わせ笑う。
「ありがとうございます夜神様」
きっと私では竜崎はあんな風には、と困ったような声を出し丁寧に礼をするワタリ。
月はワタリの苦労をたやすく想像できた。
そしてそんな相手を付き合ってる自分に苦笑いを浮かべる。


「いえ。困ったときはお互い様ですよ」










   −END−


こちらも負けず嫌いで。

2004.09.12