何かを見ているわけでは無いようで、ぼうっとどこかを見つめている。
竜崎という人物は椅子に足まで乗せたままの状態で動きが止まっていた。
「どうした、竜崎?」
月は、他の刑事達が聞けなかったことを部屋に入って数分もしないうちにあっさりと聞いた。
気になっていた周りの人物は、よくやったと声に出さず叫ぶ。
注目を集めている本人は、見下ろしている月と目を合わせて。
「………いいえ」
軽く答えてテーブルに置かれているチョコレートに手を出した。
期待していただけ逢って、ガッカリする者もいる。
月は、少しムッとした顔を見せたが何も聞くことなくその場を離れた。
しばらく言葉が無かった空間に声が響く。
「……月くんはライバルっています?」
黙っていた竜崎の言葉にきょとんとする月。
しかしそれも一瞬にことですぐに言われたことについて頭を巡らす。
「ライバル?勉強にしてもスポーツにしても僕と張り合えるのはお前だけだと思ってたけど」
今まで月は自分と張り合えるだけの人物と出会ったことが無い。
これをライバルというのかはわからないが、手こずらせてくれるのはLだけだ。
竜崎は呆気に取られているように月を眺める。
そして、やっと言葉が伝わったかのように口を動かした。
「…そうですね」
口の端を上げて言葉を吐いた。
「何だ?どうしてそんなことを?」
月からすれば意味がわからない。
そ知らぬふりで聞き耳を立てている周りとしても同じこと。
竜崎の言葉を待つ。
「恋愛の上でどうしても邪魔な奴がいまして…」
月にチラリと目線を向けてから、忌々しそうに舌打ちする。
「へぇ?それがライバル?」
視線の先の彼は腕を組んで問う。
わかっていないのは月くらいで、他はどういう意味か理解してしまった。
邪魔な奴、が誰を指すのか。
恐怖に青筋を立てている人物の中、竜崎は続ける。
「そう思ったんですが、月くんの話で考えが変わりました」
きっぱりと言って、甘い紅茶を啜る。
「アイツらはライバルにも値しません」
一瞬険しい目をしたが、月からの視線を感じるとすぐにその目は柔らかくなる。
「そうなのか?」
眉を寄せる月。
「ええ。私のライバルは月くんだけですから」
口を緩めて嬉しそうに断言した。
月も少し気分がいいのか、笑みを返す。
本人たち以外の空気が少し固まってはいたが、二人は気にもならないらしい。
竜崎は月を眺めながら、一人何通りもの計画を練っていた。
ライバルとは言えない恋敵をどうしてやろうか。
−END−
本当のライバルは月だけ。
2004.10.27
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