色とりどりの光。
きらびやかな世界。
そこに何故か深い深い存在。
今日は長かった。
CM、新曲、映画の全ての会議がうまい具合に重なってホテルやテレビ局をたらい回しにされた。
流石に朝からこれだと疲れてくる。
これ最後だと言われ、なんとか体を動かした。
着いた先は某ホテル。
よりにもよってパーティ好きの女優から誘われたもので出ないわけにはいかないとマネージャーに押され無理矢理歩を進めた。
パーティ会場は高級の一言。
有名シェフのとりどりの料理が並べられ、配る酒も一流の物。
綺麗な洋服に着飾られ談笑する美麗なモデル、俳優、ミュージシャン。
キラキラとシャンデリアの光が揺れている。
人に囲まれ愛想笑いを浮かべながら内心溜息をついた。
初めこそは圧倒された光だったが今は慣れてしまっている。
みんなが同じ色に見えた。
思い浮かぶのは彼ひとり。
一度しか会ったことは無い。
栗色の髪の毛、色素の薄い瞳、とても綺麗な顔をしていた。
あの日から彼を探している、ヤガミライト。
おもしろくも無い話に合わせるのも疲れて、ふいに開けっ放しのドアに目を向けた。
目が見開くのが自分でもわかる。
体が固まってしまう。
「ちょっとスイマセン…!」
一瞬ふわりと探していた青年が見えた。
まさか。まさか?
絨毯が続く長い廊下。後ろ姿。
「夜神くん………?」
「はい?」
振り返った彼に心臓が跳ねる。
間違いなかった、夜神ライト。
久しぶりに見た彼は赤く染めていた頬を隠すように手で押さえ、熱そうに息を吐いた。
その仕草にまた心臓が大きく跳ねたような気がした。
綺麗な顔が少し辛そうに歪んでいて、より色っぽく見えている。
「えっと……?」
言葉を濁らせる彼に苦笑を零す。
やはり覚えていないか。
「流河だよ、流河旱樹」
「流河……本物?」
気付いてはくれたが彼の、本物、という言葉に苦笑は止まらなかった。
誰と比べて、何て決まってる。
「偽物があるなら、本物ということになるかな」
「そうですよね、すみません」
眉を寄せて笑って謝ってくれる。
きっと彼の頭に浮かんでいるのは、あの黒髪の首席のことだ。
夜神ライトの中の流河旱樹はあの男なんだ。
「ハンカチのチケット、ありがとうございました」
ファンクラブのサイン会に来てくれた彼の妹に渡した物はきちんと受け取ってくれたらしい。
俺の書いた物、ということでファンとしてはそのまま自分の物にする可能性もあったが、彼の妹はそこまで酷くないようだ。
「来てくれたら嬉しいよ」
「是非」
夜神ライトは静かに笑った。
それだけで機嫌が良くなっていく自分に気付く。
「妹さん元気?」
きちんと頼んだものを渡してくれた妹に好感を持っている。
彼に勝るものは無いが。
「はい。あ、今日流河さんに会ったって言ったら怨まれそうだな」
「じゃあこれは妹さんに」
手元に何も無かったが、今日雑誌撮影のときに撮ったポラが一枚ポケットにあったので、それを差し出す。
「いいんですか?ありがとうございます」
妹が喜ぶことが嬉しいらしい。
優しい兄ということがよくわかった。
「このホテルにはどうして?」
「…………知人が泊まっているので遊びに」
詰まらせて吐いた彼の言葉に気付いてしまった。
一瞬固まった笑顔に気付いてしまった。
この世界で培ったものは役に立っている。
いや、この場合気付かず済んだ方が幸せだったのかもしれない。
彼が染めていた頬の理由。
熱い吐息の理由。
そして、彼がここにいる理由。
流河旱樹
この場にいない奴の影が見える。
彼を通して、流河が見えるのだ。
熱い息遣い。
赤く染まったその表情。
夜神ライトを手にしているのは流河、お前だと見せ付けたいのか。
おもしろい。
クッと咽で笑ってやる。
よくわかっていないヤガミライトが怪訝そうに首を傾げた。
誤魔化すように笑ったこちらに、彼も笑いを返してくれる。
相変わらず彼の笑顔は美しかった。
色とりどりの光。
きらびやかな世界。
ぶちまけた色の洪水。
眩しすぎて何も見えやしない。
そこに何故か深い深い存在。
その中に一際目立つ……
鮮やかな、黒。
−END−
アイドルと月、そして流河。
君を通して見えるんだ。その色が。
2004.10.22
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