大学の講義までの時間。
早く着過ぎたからベンチで本でも読もうと歩いていた。
後ろから付いてくる流河はいつものことだから気にしない。
ふと、いつもでは気にならないことに目が行ってしまう。
ぴたりと足を止め、流河をじっと見る。
「ねぇ流河、ちょっと背筋伸ばして立ってくれる?」
彼は突然の不可解な行動に驚いているようだったがあえてそこで声は出さなかった。
普段の悪い姿勢を崩してしゃんと立つ。
「やっぱりそうだ」
「なんですか?」
やっとこちらが口を開いたのにほっとしているようだった。
「流河は僕より身長高いんじゃないか。いつも前かがみだからわからなかったよ」
「はぁ…」
「嬉しくない?」
僕だって普通の平均より高いのに、流河はそれ以上だということだ。
お菓子ばかり食べているのによくそこまで伸びるものだと思う。
男なのだから嬉しいものなんじゃないだろうか。
「いいえ、そういうわけじゃないんですが…あの、もう普通に立っても?」
あぁ、と納得する。
無理をして若干震えている。
慣れない体制だとやはり辛いらしい。
そんな流河に笑いが浮かべずにはいられない。
「いいよ。ありがとう」
礼を言うとチラリとこちらを見て、いいえとぼそりと返してきた。
ふぅと息を吐く彼を眺める。
「でも僕としてはやっぱりいつもと同じくらいの身長の方がいいな」
「何故ですか?」





ちゅ。












「キスしやすいだろ?」


突然の出来事に呆然としている流河に、にこりを笑いかける。
先程触れた唇を確かめるように親指でなぞっている。
「月くん…」
やっと状況が飲めたのか目線を合わせた流河は嬉しそうに口元に笑みを浮かべた。













『ホントは悔しいだけだろ?』

身長で負けてることが。
リュークがそう含ませている言葉だと言うのはよくわかった。




ウルサイよリューク。



後ろでククと笑う死神に笑顔で文句を言う。
決して、図星だとは言わない。










   −END−


何に対しても負けたくない。お前には。

2004.09.11