ある日。

目の前の皿の物が無くなれば持ってこさせ、食べる。
延々とそれを繰り返している竜崎。
それを呆れた目で見ていた月が溜め息と吐いた。
「流河、糖分取り過ぎだ。甘いもの控えろ」
「無理です」
間髪入れずに返答が来る。
「そのうち糖尿病で死ぬぞ」
月が見ている分には甘味しか取っていないような気がしていた。
糖尿にならないのが不思議な気さえする。
「心配してくれるのは嬉しいですが、甘いものを取らないと頭の回転が悪くなるんです」
話している間も口を動かすことはやめない。
月は嫌そうに顔を歪める。
「別に心配してるわけじゃない、近くで甘いものばかり食べられると気分が悪いだけだ」
甘いものが特別好きというわけでは無い月にとって、目の前でそうも毎日食べられると嬉しくない。
見ているだけで胃がもたれるような気がするし匂いも充満していて気持ち悪い。
「それ以上食べるようなら僕は失礼するよ」
月はそう言ってソファから腰を上げた。
焦るのは竜崎である。
彼のことを好きな竜崎にとって、傍から離れられるのは何よりも辛い。



「ま、待ってください……!わかりました…なるべく控えます」



本気で部屋から去ろうとしている月を引きとめようと、顔を歪めながら言葉を搾り出す。
竜崎の決死の台詞を聞いた月は振り返りにこりと笑顔を浮かべる。

「そ?ならよかった」

笑顔で元の椅子に腰掛けた月とは対照的に、不貞腐れているような竜崎だった。















その夜。

刑事たちも自宅に帰宅している頃。
誰もいなくなったホテルの部屋の寝室から微かに漏れている声が聞こえる。
「ん…ッ!りゅ……ざき!退け!」
「嫌です」
切れ切れの声を発している月は、昼間とはまた別の色香を放っている。
白い身体を惜しみなく晒し、長い四肢は竜崎に押さえつけられていた。
「やめ…」
「やめません」
ねっとり撫で回る手に逐一反応を返す。
そんな月を必要以上に責める。
「甘味を取らないようにしているんですから」
口を開く前にその唇を深く深く味わう。
抵抗を見せていた月から徐々に力が抜けていくのがわかった。
「せめてあなたを充分に食べさせてもらわないと」
離した唇から覗いた赤い舌をちゅくりと吸った。
小さく声を漏らした月に、満足そうに口の端を吊り上げた。
「待…て意味がちが……ッ」
月はうまく開けられない目で緩く彼を捉える。
身体をピッタリと付けて好き勝手していた竜崎だったが、ゆっくりと体を起こした。



「ここでやめられると辛いでしょう」



彼の上に乗り、ペロと親指を舐めて悠然と見下ろす。
今、組み敷いている彼の熱が引きそうに無いことを知っていて台詞を吐く。
月は悔しさと恥ずかしさで体を震わせた。
「……ックソ!」
竜崎もこのままで収まるはずは無いだろうが、時間を延ばされるこちらも辛い。
悪態を付きながら月は目の前の男にキスを送った。

「いい子ですね」

にやりと不気味な笑いを浮かべ、眉を寄せている月の甘い身体を貪った。










   −END−


昼間は月が強くて、夜は竜崎が強い。
そんな関係。

2004.10.15