夜も更けてきたころ。
「最近寝付きが悪いんです」
何でも思考の読めない男が、いつもながら突然そんなことを言い出した。
これは友達の会話か。
試しているか、と色んな見方で考えて見たが、考えても答えは出なかった。
会話に意味は無いと判断し、軽く返事を返す。
「へえ、そう」
「隈が酷いでしょう?」
隈が酷いというか、いつもが酷いので反応できない。
「僕はいつもと変わらない気がするけど…」
「違います、ココが」
何だそのこだわりは、と思いながら、こういうこだわりを持つ人間に話を聞くと長いのであまり突っかからないことにする。
「あーはいはい。ホッとミルクでも飲んで寝れば?」
眠れないときはよくホットミルクを飲んだものだった。
「試してみましたが無理でした」
少し俯いて珍しく緑茶を啜った。
何故か紅茶カップに入っていたが。
コーヒーや紅茶だと目が冴えると判断したからだろう。
「そう、じゃあ寝ずに起きていればいいじゃないか」
「捜査に支障がでますのでそれは無理です」
確かにそれはそうだろう。
こちらとしては支障が出てくれた方が楽だが。
「で、月くん。一緒に寝てくれません?」
「はぁ……?」
何を言っているんだ、コイツは。
「安心してください、寝ると言っても眠るという意味ですよ」
少し頬を染めているようなのは気のせいか?
どうして寝るということが眠る以外の意味に繋がるんだ。
僕と、お前で。
「当たり前だ。って、そうじゃなくてなんでそうなるんだ?」
「月くんが一緒なら寝れるような気がするんです」
何だ、その理由は。
「ごめんだね。そんなことなら僕は帰らせてもらうよ」
期待の視線を送ってくる竜崎を冷たく返し、立ち上がる。
バサリと資料をテーブルに置いて、ジャケットを掴んだ。
「嫌なんですか?」
じっと見つめてくる竜崎。
目線を合わせないようにドアに向かう。
「嫌に決まってる」
「そうですか…」
キッパリと断った言葉に竜崎は特に感情を含まない口調で呟いた。
「夜中にこっそり月くんの布団に潜り込むしかないですね」
恐ろしい台詞が聞こえて、焦って振り返ると、当の竜崎は何も無かったかのようにケーキを貪っていた。
絶対に実行することが想像できて、今帰ることを躊躇わせた。
「わかった、寝るよ、寝ればいいんだろ?」
竜崎が嬉しそうに目を細めたように見えて、盛大に溜め息を吐いた。
「月くん……」
「なんだ、傍にいてやってるんだから早く寝ろ」
同じベッドに横になっている。
光は枕もとのスタンドだけ。
「月くん………」
「こっち見るな、目を閉じろ」
背中を向けて、わざわざ避けているのに視線で感じる。
思い切りこちらを見ている、しかも距離が近い。
「月くん…………」
「喋るな」
その今でも近い距離を更に近づけてくる。
喋る言葉の吐息が首に掛かって気持ち悪い。
「月くん……………」
「何だよ!寝るんじゃなかったのか!!」
我慢ができなくなり、飛び起きて声を荒げる。
「今度は興奮し過ぎて眠れません」
そのまま現状に逃避してベッドに沈みたかった。
睡眠に走れば楽だと。
しかし、そんなことをしてみれば竜崎に何をされるかわからない。
体のありとあらゆる気合で、何とか持ちこたえてなんとか作り笑いで「あぁ、そう」と返した。
−END−
ねぇ。眠れないんですよ。眠れないんですよ。
ねぇ、聞いてますか?聞こえてますか?
2004.10.13
|
|