「竜崎、腕相撲しよう」


「腕相撲…ですか」
竜崎は突然の僕の申し出によくわからないという表情をしている。
そんな竜崎ににこりと人のいい笑顔で笑いかけた。
「そう。竜崎と僕、どちらが力が強いのか気になってね。駄目か?」
正直気になっていた。
いつも、いつもいつもいつもいつも押し倒されてしまっているが、僕だって男だ。力が無いわけじゃない。
それなのに毎度のこと言いようにされてしまうのは、きっと竜崎の不意打ちや、あっと言う間に優位な体勢に捕られるのが原因に違いない。
それを今日証明してみせる。

「……わかりました」
竜崎は少し考えてから頷いた。
勝負事にこだわる彼が断るとは思ってはいなかったが、手前「ありがとう」と微笑んだ。


真向かいに座り、テーブルに腕を置く。
差し出してきた竜崎の手を軽く握った。
視線を上げると、負けず嫌いな彼の真剣な目にぶつかる。

負けたりしない。


「じゃ、行くよ?レディ…」










掛け声と共に腕にいきおいよく力が込められた。
二人の真ん中の所で震えながら二つの腕が絡んでいる。
どちらも譲ろうとしない強さだ。

「………流石竜崎。強いね」

「月くんも。なかなかですよ」

褒めているのか貶しているのか。 それにしても、僕とは対照的に顔は平然としていて焦りは見えない。
まだまだ余裕というわけか・・・

「ありがとう、でも負けないよ」

「私もです」

負けず嫌いめ。
腕に込められた力とは別に、笑顔を浮かべてやる。
すると竜崎もにっと口の端を上げた。
少しでも力を抜けば負けてしまう。
今にも押されてしまいそうな腕をなんとか抑える。
・・・負けるか。



「……月くん」



「何だ」
必死になっていて、竜崎を見ていなかった。
腕に集中しながらも、呼ばれてたので軽く顔を上げる。










ちゅ。









「私の勝ちです」




何が起こったかわからず、呆然としてしまう。
竜崎に言われて気付いたときは、僕の手の甲はテーブルに付いてしまっていた。
つまりこれは僕の負けを表していて。

「今のは卑怯だぞ竜崎!反則だ!」

「すいません、腕相撲の公式ルールを知らなかったので」
彼はしらっと言って、椅子の定位置へ身体を戻した。
公式のルール、そんなもの僕だって知ってるわけじゃない。
だけどわかるだろう、腕相撲がどういうものなのか。
「そういう問題か!」
テーブルに手をいきおいよく置いて、苛立った声を荒げてしまう。
これでも僕は負けず嫌いだ、こんな負け方は負けなんて認めない。
こんなもの負けじゃない。
竜崎は頭を少し掻いて身を椅子から乗り出した。



「またやりましょうね」



トンと唇を押されて、目を細められた。
それが何かはたと気付いて、顔に熱が上がるのがわかる。




「二度とやらない!」




僕は確かに負けず嫌いだが、こんなことごめんだ…!!


テーブルに押さえつけられた手の甲で、いきおいよく唇を拭った。










   −END−


無力。力が無い・・・=無力?

2004.10.10