大学の前に止まったリムジンの前に立つ。
コートの男がドアを開けて一礼をした。
「迎えにあがりました、流河。おや?夜神さまは…」
「彼は今日は遅れるそうだ」
返事を早々に済ませて乗り込む。
「さようですか」
ワタリは少し残念そうに呟いてドアを閉め、運転席に静かに乗り込んだ。
夜神くんは人当たりも良く、礼儀も作法も良い。
彼が好意を持つのもわかるような気がした。
アクセルを踏む前に、口にする。
「どこかへ行くと言っていたが、キラと会うのではないかと疑っている」
もちろんそれだけでは無いが。
キラとしての彼も興味あるところなのは間違いでは無い。
外には興味本位で車を眺める生徒達。
談笑をしながら帰路に着く者。
そして、その中に一際目を引く人物。
こちらには気付かないその姿に、爪を唇に運んでしまう。
「夜神月を尾けてくれ」
着いた場所は、何の変哲も無い若者が集うデパート。
一階にはテラスのカフェ。
そこに夜神月は入って行った。
相席している男が一人…
あれは……流河旱樹?
目立たないような恰好をしているが、彼だろう。
周りも気付いているのかいないのか、ただチラチラと視線を送るだけ。
もちろん視界の中には夜神月が含まれているだろうことを知って不快になる。
とにかく彼が他人に好奇な目で見られることが嫌だと感じているのだ。
それにしても何故流河旱樹と約束なんて。
彼が第二のキラ……いや、可能性としては高くない。
どちらかといえば弥海砂の方が確率はある。
しかし流河旱樹との繋がりがわからない。
弥からの紹介か……いや、有り得ない。
そういえば、彼は一度大学に居た。
夜神くんをじっと見つめていたことがあった。
興味有り気な目で。
まさか。まさか………?
ガリと音がしたのは、かけた爪。
思考に走っていた頭を現状に戻したのは流河の伸ばした手だった。
そのまま月に触れようならば、すぐに間に入ることを覚悟する。
誰であれ、彼に触れることは許さない。
その手は触れることなく、テーブルの上で止まった。
月はその手に同じように手を伸ばす。
何かを受け取った…?
よく見ると流河は手に何かを持っていた。
青い、ビニールの袋を手にしていたようだ。
夜神くんは、それを今まさに受け取っている。
そして……
笑った。
あどけなく笑った。
いつもの大人びた笑いでは無くて本当に。
そうか、頭の良さに忘れるところだった。
彼はまだ未成年だ。
先日まで高校生だった。
自分には向けない表情に怒りが募る。
言葉が出なくなった代わりに
爪をいきおいよく噛んだ。
「今日どこへ行ってたんですか?」
あの後、流河と別れるまで監視をし、夜神くんの足がこちらに向かうとわかると先に車で指定のホテルに移動する。
そして予告通り遅れて捜査に参加した彼に何気なく聞いてみた。
「え?あぁ、妹に頼まれてCDを買いに行ってたけど?」
何でも無いようにさらりと答えてくれた。
CDを、買いに?
「それだけですか?」
「そうだけど…何?またキラ?」
意味がわからないのか、眉を潜めながら逆に聞かれてしまう。
「…………いえ」
甘い甘い紅茶を口に運びながら目を伏せた。
「何だよ、変な竜崎だな」
少し大人びた表情で笑って、同じようにカップに口を付けた。
その仕草を前髪の間から上目遣いで見つめる。
そういう月くんこそ、おかしいです。
流河……流河旱樹。
秘密事にするつもりですか…?
キラと何か関係があるんですか。
それとも何か秘密にしなくてはいけないことでも?
どちらにしても邪魔なことこの上ない。
爪は噛み過ぎて、深く赤みを増した。
−END−
アイドルと流河。見ている方向は同じ。
2004.10.08
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