「別に意味は無いって言ってるだろ?何度言ったらわかるんだよ」
先程から何度も言っている言葉を荒々しく吐き出した。
「いいえ。夜神くんが意味も無くそんなことするとは思えません」
そんなことに同時もせず、こちらも何度目の同じ台詞を口にした。
口調が変わらないところが余計にイライラを誘う。
「僕は何の意味無しに笑いかけちゃいけないのか」
「いけません」
はっきりとそう言われて、さすがにカチンと来る。
大したことはしていない。
ルームサービスが運んで来てくれたホテルマンに「ありがとう」と礼を言っただけだ。
ただそれだけなのに竜崎の機嫌は限りなく悪い。
「どれだけ人権が無いんだよ。キラと疑われていると何も自由にできないのか?」
「夜神くんだからです」
何も悪いことは言っていないというような態度。
コイツは疑っているからというより、ただ気に入らないだけだろう。
溜め息を吐いて視線を手の中の書類に戻す。
「僕はその自分の我が儘を理屈っぽく言うお前の口調が嫌いだ」
じっとこちらを見ている竜崎。
あえて視線は合わせてやらない。
「…そうですか」
ガリと爪を噛んでいるらしい。
猫背をより曲げて足元を見ている。
声も落ちていて、らしくない。
チラリとそれを横目で捕らえて軽く溜め息を吐く。
「でも、お前の声は嫌いじゃ無い」
「夜神くん…」
真っ黒な目をぽかんと見開いて見つめてくる。
その視線をやはり合わせること無く、手元の紙を見つめ続けた。
ふらふらと近寄って来たと思うとぎゅうと抱きしめられる。
夜神くん夜神くんと連呼する彼はもうこうなればいつもの竜崎だ。
まったく世話が焼ける。
「嫌いじゃ無い、だけだからな」
−END−
声だけは、なんて。
2004.09.10
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