「はぁ…今日も疲れた」


上着を床に落とし、そのままの格好でどさりとベッドに寝転ぶ。
疲れを癒すため仮眠を取ろうと布団に潜り込んだ。
普段なら服を着替えずに寝るなんてことはあまり無いが、今日は仕方ない。
疲れに任せて目蓋を伏せた。



何故か布団が温かい。



嫌な汗が垂れるのを感じた。

ためらい無く、布団を力任せに捲る。












しかしそこに思っていた物は無く、安堵の息が漏れた。


「流石にいないよな……」


荒れた布団を戻し、先程と同じように横になる。
しばらく目を閉じて、眠りに入ろうとした。









聞こえる。



静かな部屋に自分以外の呼吸音が。









そろりと足を降ろしクローゼットをいきおいよく開ける。




















掛けられている服が風圧で揺れた。
奥までよく見たが、そこにも思った物は無く、いつもとおりだった。




「考え過ぎだな………」




ありもしないものが聞こえるなんて。
最近ノイローゼ気味なのかもしれない。
慣れない環境のため疲れが取れないのは事実だったから。
苦笑を浮かべ、ベッドに沈み込んだ。












感じる。




気のせいなんかじゃない。














そこで一つ嫌な答えが浮かんだ。



まさか。

















『月、あのな言いたく無いんだが』



空中を漂っていたリュークが言葉を詰まらせながら気まずそうに喋り出す。
そういえば、部屋に入ってきたときから何も喋ろうとせず、様子がおかしかった。
体が鉛のように重く、固まって動かない。
言いたくないなら言わなくていい、僕だって聞きたくない。














『Lが……中に………』













僕はその言葉を聞き終わる前に自分でも見たことが無い駿足で、父の部屋から持ってきたゴルフクラブを使って思いきりベッドを叩きのめした。

スプリングの他に聞こえた声なんて、僕は聞いてない。





僕は、絶対に、聞いていない。










   −END−


「人間椅子」ってご存知ですか?
乱歩の方じゃなくて、私は少女マンガの付録で付いてきた方を先に知りました。
昔すっごく怖かった覚えがある、そのノリで。

2004.10.03