「君はうそつきです」








一人掛けの椅子に今日も、変わった座り方をしてこちらを見ていた竜崎が突然言った。
何を言い出すかと思ったら……一般的に失礼な奴だろう。
しかし僕はキラだ。
常にキラでは無い、と確かに嘘はついている。
まさかそのことを言っているのか。
「僕は嘘なんかつかないよ」
至極当たり前のように、あくまで自然にそう言う。
言葉を聞いてからも竜崎は見つめ、ショートケーキを突いた。
フォークに乗せた真っ白なクリームをあくまでゆっくりと口に運び何も言葉を発しない。
普段から何を考えているのかわからない奴だ。
竜崎がショートケーキから目を離し、やっとこちらを見る。
何を言われても気を抜かないようにと体に力を入れた。





「いいえ、私のことを好きなのに好きじゃないなんて嘘を言います。だからうそつきです」





本当に力が抜けた。
「ハハ、そう」
乾いた笑いが出てしまう。
それはいくら僕でも仕方の無いことだったと思う。
彼はLとしては強敵だが、意味のわからないことをよく言う。
と、言うかすでに行動に起こす。
初めて会ったときから妙なことばかり言ってくる。
なんでも僕に惚れた、とか。
何かの罠かとも思うが、あまりに僕に注ぐ目つきが恐ろしいのできっと奴は本気だ。
しかし何故僕も竜崎を好きだということになるんだ。
柔らかく拒否をしても、竜崎は受け入れる気は無いらしい。
本気でほとほと困っていたので、ここで奴にもわかるように拒否を示そうと考えた。
「竜崎がそういうならそうかもね。」
にっこりと笑顔を作ってやると、嬉しそうに竜崎がまたケーキを口に入れた。
私の推理は外れません、とかなんとか。
つくづく馬鹿にしている。


「じゃあそのうそつきな僕が、今から一つだけ嘘を言うね?」


「どうぞ」
大声で怒鳴ってやりたい気持ちを抑えて、あくまで柔らかく言った。
残りのイチゴにフォークを突き立てた竜崎に、最高の笑顔を送る。









「僕は、竜崎のこと好きなんだよ」








「………………」


ポロリと竜崎のイチゴが床に落ちた。
さすがにここまで言ったら鈍くてもわかるだろう。
竜崎は目を見開いたまま静止している。
すっきりして作り笑顔では無い笑顔も浮かぶというものだ。
彼がうそつきというから嘘をついてやったんだ。


「ごめんね、嘘言っちゃったよ。」











「はい、わかってます」










「私のことは"大好き"なんですよね?だからそんな嘘を」



表情は変わっていないが、嬉しそうだというのはわかる。
一瞬何を言っているのかが、わからなかった。
十分に頭に染み渡ったときに、やっと声が出た。

「なっ!」

なんていう誤解を、いや都合のいい方に解釈しているんだ。
そんな言葉も出る前に、竜崎はこちらに手で静止を掛ける。


「えぇ、わかってます。皆まで言わないでください」











「愛してます月くん!」



Lという人物は恐ろしい。
そう実感したのは、いきおいよく床を蹴って飛びついてきたLの腕の中でだった。










   −END−


都合のいいことにしか考えられない?そんなことないですよ。
ね、月くん。そうでしょう?

2004.10.02