天下のLが大きな声を出し、月の腕に縋っている。



「それは!それだけは勘弁してください!」



それだけは、と言われれば少しは心が揺らぐこともあるだろう。
しかし当の本人月は何の表情の変えることは無く、必死に腕を掴んでくる竜崎を冷めた目で見下す。


「嫌だ。人権侵害で訴えるよ?」
今まで譲歩してきたつもりだ。
竜崎は探偵だし、なによりバックに警察が付いている。
でも許せることと許せないことがある。
Lは彼だとわからない人は多い、訴えることも可能だ。
「権力で潰します、そんな裁判」
ボソリと呟いた言葉に更に月の目が厳しくなる。





「……………嫌いになるよ?」





「月くん……ッ!!」
悲痛な声を出す。
月も黙ってはいられず、声を荒げる。
「だったら捨てさせろよ!こんな物!!」
「嫌です、無理です」
苛立った月は手の中の物に力を込める。
そしてもう一度、足をゴミ箱へ向ける。
しかし竜崎も掴んだ腕を放そうともせず、てこでも動かせない気だ。

「竜崎ッッ!!」










「宝物なんです!月くんが口を拭いたナプキン!!」










   −END−


コレクションなんです。だからお願い。

































似たもの同士→寸止め(おまけ:捨てないで)








「お兄ちゃん!旱樹が!旱樹がこれお兄ちゃんにって!!」




リビングに入って来て突然ハンカチを見せられる。
「ヒデキ?」
聞いたことが無い名前に眉を潜める。
友人にヒデキという奴はいないはずだし。
「流河だよ!りゅーが!!流河旱樹!」
流河旱樹・・・・!


「粧裕、お前流河に会ったのか?」


ピリと怒りにも似た緊張感が走り、思わずソファから身を乗り出す。
もしかしたら妹にも余計な詮索を入れているのかと思考を巡らせる。
そんな様子に首を傾げあっけらかんと粧裕は答えた。
「会うに決まってんじゃん!握手会だもん!」
何言ってんのお兄ちゃん!と指を指して言われる。
「握手……あぁ、そういえばアイドルの握手会に行くって言ってたね」
そういえば今日朝から張り切って家を出て行ったっけ。
取り合えずLは関係無いことがわかりほっと息を吐き、乗り出した身を戻した。




「で、ソイツが何?僕に?」
腕を組んで妹の話に耳を寄せる。
ソイツって言わないでよーと反論されると思いきや粧裕は興奮でそんなところじゃないらしい。
「お兄ちゃんの学校でライブするらしいじゃん!どうせ行かないんでしょ!首席の人にも見てもらいたいって旱樹が!!」
ズイとペンで綴ってあるハンカチを目の前に出される。
本物のサインかどうかなんてわからなかったが、確かに「流河旱樹」と書いてあるようだった。
「ふーん………」
アイドルなんかに興味は無いし、正直どうでもいいと思っている。
大学でライブがあるというのも妹から聞いて知ったくらいだし。
行く気んなんて確実に無かったのは事実だ。
しかし何でファンの兄がライブをする大学の首席だからといってこんなもの…?
一種のファンサービスなんだろうか。



「捨てないでよね!直筆なんだから!!」

兄に、ということ渡されたので手元に置いておきたいのを我慢しているらしい。
子を叱るような口調で言われてしまう。
「はいはい」
くすりと笑いながら返事をする。
粧裕は、もー!と声を高くした。
「お兄ちゃん!!」


まいったなと思いながらもきっと行くことになるんだろうと溜め息を吐く。
天下のキラも妹には弱い、お兄ちゃんらしい。
ハンカチを"流河"のように二本の指で目線より上に持ち上げ、黒の名前を眺めた。




流河、旱樹










   −END−


「似たもの同士」→「寸止め」→「捨てないで」
月とアイドルのきっかけ。それだけ。

2004.09.30