ホテルの一室。
キラ対策を行う捜査本部。
一人掛けのソファに怪しい座り方をしている探偵Lを遠目で見つめながらひそひそと話しているのは相沢と松田だ。
「今日、竜崎機嫌良くないか?」
「そうですよね。」
いつも何を考えているのかわからない竜崎だが、今日は何故か機嫌がいいとわかった。
体を軽く前後に揺さぶりながらショートケーキをフォークで突いている。
ついでに鼻歌までも聞こえてきそうだ。
「僕なんか買ってくるケーキを間違えたのに笑顔でいいですよと言われましたよ」
松田のドジはいつものことで、竜崎の怒りを買うことは少なくなかった。
特にお菓子の恨みはすごいもので、それはもう一日部屋の空気が重くなるのは常だった。
それが、雑言無しに許し、その上笑顔付きなんて。
普段の竜崎ではまったく考えられない。
「今日、何か特別なことでもあったのか?」
「いつもと変わらなかったと思いますよ?局長と月くんと俺と相沢さんで会議でしょ?」
「だよなぁ…」
「松田さん、相沢さん」
「「は、はいぃ!?」」
突然後ろで聞こえた声に思わず体が跳ね上がってしまう。
おそるおそる振り返ると猫背でのっそりと噂の張本人が立っていた。
「後は私一人で平気ですので、今日は早めに上がってください。」
「「え!!?」」
「なんですか?」
思わず発してしまった声に竜崎はきょとんと答えた。
驚くのも無理は無い。
今まで「上がってください」なんてこちらを労った言葉をもらったことなど無いのだ。
文句や嫌味を言われたことは多々あるが。
いつもの竜崎らしくない。
唾をごくりと飲み込んで、思い切って疑問を口にする。
「竜崎、どうしたんですか?」
「何がですか?」
「いつもでは考えられないくらい異常に優し…いえ機嫌がいいと言うか…」
松田が危うく本音を滑らしそうになり、相沢は慌てて肘で突いた。
それに気付いた彼も焦って誤魔化す。
「何かいいことでもあったんですか?」
怒る暇を与えないように続いて質問してしまう。
竜崎はまるで気にしない様子で「あぁ」と納得した呟きを漏らす。
「月くんとね、手が触れ合ったんです」
本当に嬉しそうに右手を挙げ、うっとりと見やる。
二人はぽかんとそれを見つめながら立ち尽くす。
意表を突かれた答えに「それだけか!?」という言葉も出なかった。
−END−
刑事達への優しさなんて貴方の態度一つでどうにでもなります。
2004.09.09
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