「どいつだよ、夜神月って」


「首席なんだろ?」


「アイツだろ」


「頭良し顔良しってやつ?イヤミだね〜」


「でも綺麗だよな」


「わかるわかる」


「かっこいー」


「美人だな〜」


「そうか、俺は別にそうは…」


「何よ、馬鹿にする気ー?」


「友達になりてぇなー」


「お前話しに行けよ」


「そうだな、行ってみるか」














「どいてください」














何の感情も含んでいない声が後ろから聞こえてギクリとした。
だらりとした服装と体制、有名なアイドルの名前で首席。
彼もまた校内で有名となった人物だった。
そして噂の種が夜神月に集まっているのを知っているかのように夜神と交互に周りを見比べた。
悪いことなんて何もしていないのに、ひやりとしてしまう。
ただ休み時間中の友達同士の会話なだけだ。
先程まで軽かった空気は一瞬にして重いものに変わっている。
そんなことも見透かしいるように、無表情に集まっていた人の輪を通り抜け、彼のいる方へ足を踏み出した。
その態度にぽかんとする奴もいれば、ムッとする奴もいるわけで。
輪の中で、勇気のある男が流河の肩を叩いた。



「オイ、夜神と首席だからって抜け駆けしてんじゃねぇぞ」



言われたことについて考えているのか全く頭に入っていないかわからないぼけっとした顔で見つめる。
それがまたその男の癇に障って、口を出しそうになる。
そのとき、竜崎が口に当てた指の爪をガリと噛んだ音に威圧感を感じ、男だけで無く周りもビクリと体を震わせた。
















「あなたが彼を手に入れられるとでも?」
















口の端を上げて笑ったが目が少しも笑っていない。
冷たいものが背筋を走る。
固まっているこちらをさして気にすることも無く、呼び止められる前と同じように夜神月へ足を向けた。




次はそれを止めることもできず、ただ全員が顔を青くして見送っていた。










   −END−


周りから見て「月への抜け駆け流河」
他の人間なんてどうでもいいんです。

2004.09.25