きゃあという黄色い歓声。
五月蝿い噂と声のラッシュ。
サングラスを上げながら手を軽く振り周りに答えてやる。
日本一頭のいい学校と言われていてもアイドル相手だとそうも他と変わらない。
今日は理事長直々に学園祭に来てくれないかと頼まれて下見に来ているところだった。
ただ頼まれただけなら自ら行く気はしなかったが、おもしろい話を聞いたので行ってみるかと思ったのだ。

"流河旱樹"

俺の名前と同姓同名の男がいるらしい。
変わった名前だというのに珍しい。
主席でスポーツもできるとか。
ソイツに会ってみたいという好奇心に従って、今ここにいる。
もしかしたら、自分と似ているのではないかと。
顔も、体型も、もしかしたら性格も?
世界に3人は自分と同じような人間がいるらしいし、それも面白い。











それにしても、外見を聞いて無かったからか歩いているだけじゃどいつがそいつなのかわからない。
こういう顔を知らないかと自分を指して聞いても反応を楽しめるかもしれない。
誰かに聞くのが手っ取り早いが、こう遠くから珍しい物を見るように囲まれていては声も掛けづらいというものだ。




「流河〜?」




自分の名前を呼ぶ声。
ファンの塊を気にもしないようにきょろきょろと辺りを見回しながら流河と呼ぶ青年。
呼び捨てには慣れているけどな。
ふと視界に彼を入れたとき驚いた。
とても美しかったからだ。
「流河ー……」
こちらに向かってくる。
名前を連呼しているところを考えると、どうやら彼は俺のファンらしい。
握手を求めるのか、それとも写真かサインか。
どれでもいい、彼になら何でも答えてやれる気がする。
彼が望むならデュオで組んでもいい。
俺に見劣りはしない容姿。
きっと話題せいもある。
彼がこちらに向かって歩むの一歩一歩見つめながら待つ。
もう少し、というところで彼は手前にいた女の子の肩をポンと叩いた。
振り向いた彼女は、きゃと少し嬉しそうに頬を染める。
「ごめんね?流河見なかった?」
「流河くんならさっき門に向かって歩いてたみたいだけど」
「そうか。ありがと」
女生徒に礼を言うとこちらに目を向けず踵を返した。
ぽかんと口を開けてしまう。
こちらに来ること無く、彼は去っていく。
どういうことだ。
思考がまとまらない状況に先程声を掛けられていた女生徒が友達と嬉々して会話するのが耳に入る。








「やっぱり仲いいよね、流河くんと」








"流河"くん?
くん付けされた名前。
そこで思い出す。
この学校に、もう一人の"流河旱樹"がいたことを。
自分が恐ろしいほど落胆しているのがわかった。
元々の目的を忘れるほどに。
足を向ける。
彼の去っていった後を足早に追う。
愛想を振りまいていた先程とは違い、周りの声は気にならなかった。
「人を呼んでおいて消えるなんて流河も酷いことするね、おかげで無駄に歩くことになったじゃないか」
門で見かけた先程の彼は、違う男と一緒にいた。
綺麗な眉を寄せて咎めている。
「すみません」
「いいけど」
もう慣れたよ、と笑った彼はとても美しかった。
どきりと心臓が跳ねた気がする。
彼が流河と呼んだ。
つまり今一緒にいるのがもう一人の"流河旱樹"
「そろそろ行きましょうか」
綺麗な青年の背中を押して、車へ乗ることを促した。
ベンツに乗り込んだ彼を眺める。


すると近場から視線を感じて、そちらに目を向けた。



猫背で黒髪の男。
目は真っ黒でぎょろりとしている。
何を考えているかわからない表情だが、ビリビリと怒りを発してるくらいわかる。






彼が"流河旱樹"














「彼は私のものです」
















呟くように、しかしハッキリそう言うと、黒い車に乗り込んだ。
不快感でいっぱいになりながら、その車が消えるまで眺めていた。
名前が一緒だから、似ているかもしれないという予想は外れていた。
彼はまったく俺とは似ていなかった。
見た目なんて俺の方が絶対にいいし、センスだって俺が勝っている。


それなのに


親しげにしていた。
あの彼に笑顔も呆れた顔も向けられていた。
名前を呼ばれていた。


それだけなのに




"流河旱樹"






「似ている、かもしれない」














私のものです、か。





おもしろい。
















彼の人を見るセンスは俺と似ている。








悪くない。










   −END−


(本物)流河登場。
顔は似てないけど好きな人の趣味は似てる。似たもの同士?ホントに?

2004.09.21