「松田さん、今日はモンブランを頼んだはずでしょう」
箱の蓋を指先で摘んで竜崎は不機嫌そうな口調で言った。
焦るのはケーキを買ってきた松田だ。
「え?あ、すいません…!今から買ってきます!!」
今さっき座った椅子からいきおいよく立ち上がり一礼すると足早にドアへ向かう。
「買いに行くならバナナケーキとチョコムースも買ってきてください」
「は、はい……!」
パタンと扉が閉まるのを気にもせず、箱の中からパイケーキを取り出す。
欲しかった物が買ってもらって無かったからといって買いに行かせるようなものか?
松田さんが買ってきた箱には他に色とりどりのケーキが詰まっているのに。
よほど甘いものに目が無いか、我侭なんだ。
「竜崎。君は我慢というものをしたこと無いだろう」
呆れた声を出すと、ちらりとこちらを見る竜崎。
「失礼ですね。我慢くらいしてるんですよ、これでも」
拗ねたような口調で、パイを口にしながら答える竜崎に素直に驚いた。
我侭な彼でも我慢していることがあるということには興味がある。
「へぇ?何を」
僕をじっと見つめ、フォークをこちらに向ける。
フォークを指す行為がマナー違反だと感じ、ムッとしてしまうが今更彼にそんなことを言っても仕方が無い。
竜崎はゆっくり口を開く。
「あなたを」
「は?」
間抜けな声が漏れてしまう。
「我慢してるでしょう?私は」
にっと笑いを向けてさも自分が正しいかのように言葉を放ったが。
我慢してるだと…?
普段の行動を何だと思っているんだ。
本当にそんなこと思ってるのかと思うと沸々と怒りが湧いてくる。
コイツ………な、殴りたい
その気持ちを抑え、なんとか笑顔を搾り出す。
「そうだね、ハハッ」
こんなところで殴ってしまってはまた疑いを深くするだけだ。
Lの名前を知るまで、抑えなければ。
そんなこちらを尻目にその本人は僕に手を伸ばそうとしては戻し伸ばそうとしては戻しを繰り返している。
何をやってるんだとは思いつつも竜崎は真顔で、しかも苦しそうだ。
あぁ、今すぐその真顔をグーで思いっきり歪ませたい。
「「我慢、我慢」」
−END−
これでも我慢してやってるんだ。
2004.09.19
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