「それ以上口に出してみろ。二度と大好きなケーキを食べれないようにしてやるからな」
いつものやりとりをしていて、あまりの竜崎の話についに体が動いてしまっていた。
左右の頬を顔の真ん中に潰すように力を込めて挟み、ついでにこりと笑ってやった。
「りゃいときゅん…」
唇がアヒルのようにパクパク動いている。
それさえも腹ただしくなってきて両手に更に力を加えようと身を乗り出したとき。
「すまない、竜崎。遅れてしま…っ」
ガチャリ。
ドアのノブに手をかけて固まっている父と目が合っている。
夜神総一郎という男は目を引ん剥いて汗をだらだら出してきている。
マズイ、ような、気がする。
「父さ…」
「ら、月お前…」
よろりと足が力無く僕へ歩みよる。
その父の後から人影がひょっこり現れる。
「月くんいるんですか?ケーキ買ってきたから一緒に…」
「松田さん……」
軽い声は途中でピタリと止まり、ドアのところで父親と同じように石になった。
ついでにお約束のように手に持っていたケーキの箱は絨毯へ落下。
「あぁケーキが…」
竜崎は、さもそちらがメインだというように箱を見つめて残念そうに呟いた。
「月…まさか竜崎と……つ、付き合って」
「えぇ?!月くんと竜崎が!?」
父の声が震えている。
声だけじゃなく、指先まで震えているが。
松田さんに至っては目がおろおろと行ったり来たり、声は裏返っている。
「ちょっと待って、違っ」
いらぬ誤解だ。
というかお断りだ。
気持ち悪い誤解を解こうと二人に歩み寄る。
「バレてしまいましたね、月くん。こうなったら責任を取って結婚するしかありません」
「「「結婚!!??」」」
何を言っているのかわからず、思わず大きな声を出してしまう。
「できるわけないだろ!結婚なんて!」
「私はすると言ったらする男です、安心してください」
さらりと言ってのける相手は天下のLだ。
本当にしそうで怖い。
さり気なく手を握られている辺りが本気だと確信させられる。
「月、竜崎と結婚する気なのか?したいのか・・・?」
真っ青な唇で紡ぎ出すのは有り得ない言葉。
よく考えればわかるところなのに。
「父さん。落ち着いてよ」
「そうですよ、お義父さん」
「……オトウサン」
ガク。
「わ!ちょっと父さんしっかりして!父さん!!」
白目を向いて足元から崩れ去った父を急いで支えに行く。
心臓麻痺で死んでしまうなんてこと無いだろうか。
「松田さん、病院に連絡してください……!」
Lも同じようにパタパタと駆け寄り、少し早口で松田に指示を出す。
いつもならそこで慌てた声で返事をする松田さんだが、今日は返事が無い。
おかしいと思い、そちら見ると黙ったままこちらをじっと見ている刑事の姿が目に入る。
「松田さん…?」
「竜崎と月くんなんて不潔だー!!」
大声で叫びながら部屋から飛び出して行く松田さん。
目には涙を浮かべているようだった。
「ちょっ、ちょっと!」
あぁ、誤解している。
不潔ってなんだ、と呆然としてしまう。
「松田なんか放っておきましょう。それよりお義父さんの方が心配です」
電話を取り、ワタリさんを呼び出しているらしい竜崎。
普通に「オトウサン」と呼んでいる彼に恐怖を覚えたが、竜崎の言う通り今はうなされている様に苦しんでいる父に意識を向けた。
ニヤリといやらしい笑いを浮かべた竜崎には気付かなかった。
−END−
こうなれば結婚でしょう。
2004.09.18
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