ベッドでふたり。
他に物音は無く、ただふたりシーツに包まりじっと寄り添う。
ゆっくりと過ぎる時間の中、朝を待つ。


「月くん、手を繋いでも?」
珍しく遠慮がちに問う。
その様子に月は口に笑みを浮かべる。
「いいよ」
優しくそ呟いた言葉を受け、するリと手を絡み、指を深く繋げる。
掌から鼓動と熱が伝わってきて冷えた体が癒されていく。
「好きです」
「……うん」
小さく小さく答えるその様は、とてもあのヤガミライトを思わせない。
おとなしくただ小さく頷き、俯いた。
それがまた愛しくて、ぎゅっと強く握り締めた。

「ずっと一緒にいてください」

それは今まで言えなかった言葉。
ずっと、なんて言ってしまっていいのか。
もしキラだとしたら?Lとしてはどうすれば。
そう考え出すと、現実味が増して怖かった。
しかし何故か今日は口に出さずにはいられなかったのだ。

「貴方といたい」

自分の言葉とは思えないほど、気持ちが篭っていて驚く。
言葉に出てきて初めてそこでこんなにも切望していたんだと理解した。

「貴方と、いたい」

もう一度味わいながら口を動かす。
口の鍵でも外れたかのように、するりと言葉が出てきた。
あぁ、壊れてしまってもいいのかもしれない。
利用される気持ちでもいいのかもしれない。
好きなんだ、とても好きなんだ。
月は何も返さず竜崎に凭れ掛かる。
それにさえどきりと胸が弾む。
しかし彼がそこから一向に動こうとはしない。
刺激を与えないよう覗き込むと彼はすでに半眼で、眠りと現実の間に居るようだった。
頭が揺れ、辛うじて開いている瞳も溶けるほどにとろりとしていた。
きっと何を言っても聞こえてはいないのだろうと、理解する。
安心したような、残念のような複雑な気持ちのまま彼を見つめる。
ふいに唇が「竜崎」と名前を呼んだような気がした。
何ですか、と口を開く瞬間。まさにそのとき。




「…愛してる」




ふわりと微笑み、そう口にした。
それは今まで見たことも無いような特別な笑顔。
優しく柔らかく、そして甘い。
聴いたことの無いような声色で言葉を紡いだ。
「……月くん?」
治まるということを知らないような心臓を感じながら、名を呼ぶ。
すると、もう彼は夢の中の住人になってしまったのか相槌さえ返さなかった。
ただ形の良い唇から吐息が漏れるだけ。

体にじわりと染みる言葉をゆっくり味わう。
たった5つの言葉なのに。
ありふれた言葉なのに。
あぁどうして、彼が紡ぐと特別になるのか。

愛しくて愛しくて仕方が無い存在。
明日になれば、彼はまた大人の笑みを浮かべ冷めたフリもするのだろう。
今夜のことも忘れ、鋭い瞳を向けるのだ。
しかし。
今夜だけは。
せめて沢山の気持ちを知り、愛を感じてほしい。
今だけはゆっくりと。



「おやすみ」



優しいキスを受け取って。
ふたり手を繋いで。

今だけは。今だけは。


泣きたいほどに、愛してる。










   −END−


おやすみ。おやすみ。
つかの間のことだとしても。
それでしあわせ、それがしあわせ。
お題終了ありがとうございました。

2004.12.16