「好きです、月くん」


「え?」






突然だった。
いつも通り、大学へ行って講義を受けて、話もした。
相変わらずまとわり付かれ、監視はされていたけど何も変わらない日だったはずだった。
流河の言葉を聞くまでは。


「何言ってるんだ、冗談だろう?」

「いいえ、そんなつもりはありません」

笑おうと思ったが笑えなかった。
じっと見つめる目が冗談では無いことを語っていることぐらいわかる。
あまりに真っ直ぐ見つめてくるので、目を逸らしてしまった。


男が男を?
それは男に好かれることは何度もあったので知っている。
でも今回は相手が違う。
流河だ。
何に対しても、いや人に対して執着の無さそうな彼が。
その彼が?僕を?

有り得ない、有り得ないだろう。




だって、












『ウホッ。月モテモテだな』

普段、自分でも驚くほどの頭の回転の速さを誇りに持っていた。
そう思っていたはずだった。
なのに。
この混乱はなんだ。
頭も体もこの状況に付いていっていない。

『何だ、どうした?月』

体が動かない。体が、動かない。
何だと言うんだろう。
これは。
今まで誰に告白されても、こんな気持ちにはならなかった。
驚きと同時に、嬉しいなんて思ってしまっている。


嬉しい……


流河が僕のことを…?
そう思うと顔が高潮してしまう。
らしくない。


ちらりと流河を盗み見ると、先程と何ら変わらぬ様子でじっと月を見ていた。
頭が熱を持っている。
それをなんとか押し込むよう目を閉じる。
待っているんだ。
流河は僕の答えを待っている。



答えなければ



「……りゅ」
今にも震えてしまいそうな唇になんとか叱咤して、咽の奥から言葉を搾り出す。
瞳を見返すだけで、吸い込まれそうだと感じている。


「何を考えました?」


突然呟いた声に、出かけていた言葉が詰まる。
いきなり何を言っているんだ?
「キラでは無い、だから付き合おうと思ったんですか?」
「き…」
キラ?
「自分の無実を証明するために、好きでも無い私と付き合うんですか?」
先程まで同じ目。
しかし、鋭い探偵の輝きを持って見つめてくる。
それは普段、僕を疑うLの目だ。



あぁ、そうか。



「そうだね、疑いを晴らすためなら付き合いたいところだけど」

「男は御免だね」
鼻で笑ってLを残してその場を去る。
Lの視線を背中で感じでも振り返ろうとはしなかった。






不覚だ。 僕はキラなのに。
『月……?』
「ウルサイ。うるさいよリューク。」
忘れてしまっていた自分がいた。
Lはそういうつもりだったのに、僕は。
何かの間違いだ。
さっきの感情は、意表を突かれたからだ。
でなきゃ…
「困る」
『何が困るんだ?』
後ろの死神はいつもの僕と違う様子にうろたえているようだった。
そんなリュークに何故か少しほっとして息をついた。
「何でも無い。」
足早に帰路を急ぐ。
風が強くて、気持ちいい。
「りんご、買って行こうか」
『ウホ!りんごりんご!』
嬉しそうに舞っている死神を見て、くすりと笑いを漏らした。
デスノートの切れ端の入った財布を少し撫でて目を瞑る。

神になるんだ。
Lの作戦には乗らない。


余計な感情に振り回されてたまるか。



















「好きです……」







「好きです、月くん」
誰もいなくなったところでひとり。
ざわりと広がる木のざわめきの中で何度も繰り返し呟く言葉。
その声も、いつしか口内で消えた。










   −END−


月とL、キラと流河。

2004.09.07