獣のように




濃厚に絡められ、吸われて息をつく暇を与えてくれない。
強引で乱暴で大胆で、自分勝手な口付け。

「ァ…旦那、苦し…っ」

抱き締められた体を捩ると少しの力で腕を突っ張る。
唇の少しの隙間からそう漏らす。
自分の声のはずなのにうまく声にならない。

「ハ…ッ…ハァッ……すまぬ、佐助」

荒れた息の中、途切れ途切れに謝られる。
熱い、熱い、息も頬も目頭も。
近くに掛かる真田幸村その人の熱が移りそうになって未だきつく抱き締めようとしてくる旦那から身を引いて離す。
なんだか目を合わせ辛く、視線を伏せながら口の端から顎へ伝う名残を指の腹で拭う。

「…旦那?」

何も言わない旦那に目を上げると、真っ直ぐな目とかち合い、ぎくりと体が揺れた。

「……佐助、」

呼ぶ声は熱が籠っていていつもより幾分低く。
頬に触れた掌は汗ばんで。
純真に、真っ直ぐな目はギラギラと艶やかに光っていてゾクリとした。

「旦那、まるで…」

続く言葉は吐息に変わる。



獣に、食べら、れる。







   −終−






なんて愛しいケモノ。




2005.10.13