衣擦れ
白と藍の上等な品。
こんなものを着ることなんて滅多に無いことだ。
きっちりとした着こなしを要求される服は忍からすれば非常に動きにくい。
歩く度に擦れ合って出る音は、どう考えても忍ぶには向かない。
なんて。こんなことを考えてしまうのは一種の仕事病か。
自分の思考に苦笑を浮かべていると、遠くから聞きなれた声が聞こえた。
「佐助?その格好は」
真田の旦那。
赤いいつもの服は今は無く、その様子も夕刻だからか、大将が見えないからか、落ち着いて見える。
いつもこうだったら俺も面倒見るのが楽なんだけどとぼんやり思う。
「いつもの服は血付いてるんで洗う間だけ」
戦の後はしょうがない。
誰に頼むわけでも無いから川に洗いに行こうと思っていた矢先だったのだ。
「旦那?」
ぼんやりとこちらを見つめたまま微動だにしない旦那。
心配になって目の前で手を振ってやるとハッと焦点を合わせ、それからうろうろと視線をさまよわせてから何か決めたようにこちらをじっと見つめた。
何だろう。小首を傾げる。
「今宵、その、床を共にしたい」
よいか?聞く主。
おかしいほど真っ赤で、照れるのは普通こっちだろとツッコんでしまいそうだ。
取りあえずお伺いを立ててくる幸村の旦那に、構わないと頷くとこれまた真っ赤な顔を更に赤くして
「そうか!」
とホッとしたような緊張したような張った声を出した。
「じゃあ、旦那。後で部屋に出向くよ」
手元にある服をなんとかしたいし、血のにおいがするから湯浴みもしたい、それが無理なら行水でも構わない。
旦那はわかった、と頷く。
約束を取り交わして、じゃあと背を向けた。
「そうだ佐助」
「うん?」
幾分も離れていないところで呼び止められ、振り向く。
「そっ、その格好、よく似合っておる」
これまた真っ赤な顔。
何なんだ、アンタは、もう。
そんな顔で口説いてるつもりなのか?それじゃ女も呆れるよ。
自分を着ている主の赤い顔を呆れるように、白と藍の着物が鳴ってみせた。
−終−
なんだかなぁ、もう。
2005.10.13
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