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今日は寒い。
地形のせいでもあるが、灰色の空からチラリチラリと雪も舞っている。
その空も、今は障子に阻まれて拝めないのだが。まあ今はそんな問題は置いておく。
「ねえ」
「Ah~?」
異国語訛りの発音が気に障る。
息をすぅと吸い込んで、できるだけハッキリ。

「俺様は、何で、こんなとこにいるのかな?」

青筋が立つのを笑顔で隠して言ってやった。
この、眼帯を掛けた男に向かって。
本人はと言うと吊り上がった目に眉間の皴を寄せて、より目つきを悪くさせたいた。
「俺の城をこんなとか言うんじゃねえ、You see?」
「そんなこと言ってんじゃないのよ、話聞けよ」
戦場に居たはずだが、突然大量の軍馬に乗ったやけに五月蝿い集団にいつの間にか巻き込まれていた。
そして気がついたら此処だ。どこだ。判断に一瞬迷ったの俺のせいじゃないはずだ。
しかし襖を開け入ってきた人物で、自分がどこにいるのかすぐに理解した。
此処は奥州。伊達政宗の領地。
目の前にいるのは本人である独眼竜伊達政宗。
寒ぃだろ、と厚手の上掛けを貰ってから何度問うたか「何故ここに」。
答えは貰えず、暖かい火鉢に当たらせてもらっている状況はおかしい。
「伊達の旦那、俺、帰っていい?」
「No」
この答えだけは決まってる。
今すぐ逃げて、戦に戻ろうとした俺に、伊達の旦那は真田は無事だと教えてくれた。
忍の鳥を飛ばして確認を取ったが、間違った情報では無かった。
簡単な戦…いつもの上杉軍との仲違いの延長の喧嘩のようなものだったがそれでも無事だということを知り、取り合えず胸を撫で下ろした。
一応殺さずに居てくれたようだし、敵意も無い、主は無事だと教えてもらったし、寒い中こうして暖かくさせてもらっている。
こうしてまるで客人のような扱いを受けると抜け出して勝手に帰るということがし辛い。
参ったなあ、と何度目かの溜息を吐く。
近くで紫煙をたゆらせている伊達の旦那はただボーっとしてるだけで俺なんか気にもしてないようだ。
それなら帰らせてくれたらいいのに。
しかしそれも敵わない。
どうにもできないやり切れなさを火鉢を掻き混ぜることで表に出した。
「………政宗様」
パチリと火花が弾けた音と同時に、襖の向こうから声が聞こえた。
この声には聞き覚えがある。
「入れ」
伊達の偉そうな言葉に覗かせた姿を見て思うことは、やっぱり。
伊達政宗の部下、完全な忠誠を誓う人物。片倉小十郎。
生真面目そうな視線がかち合い、真っ向から見詰め合った。ギロリとした瞳に微かな鋭さ。
もしかしたら斬りかかられるかもとぼんやりしながら思うことはひとつ。
この男なら俺がここにいるのをきっと正すに違いない。
「政宗様、茶お持ちしました」
「Thank you」
予想とは外れ、視線はすぐに伊達の旦那に移り。
当たり前のように茶を差し出し、そして俺の前にも。
そして当たり前のように襖を閉めて今まさに去ろうとしていた。そこで慌てて意識を振り戻した。
「ちょっと待ってよ、片倉サン!」
は?と二人同時に振り向く。
伊達の旦那は「片倉サン」という呼び名をしたことに何故か少しまた眉を寄せているが今はそれより、
「俺おかしいよね?ここにいるのおかしいでしょ!何で何も言わないのさ!」
頭の良い人間だという情報は前々から仕入れていたこちらとしてはこの片倉小十郎の反応には恐ろしく違和感を感じる。
伊達の右腕は襖に掛けていた手を止め、一度目を伏せてまたあの無愛想とも言える生真面目だけの顔で口を開いた。
「政宗様が言いました『今日、佐助を呼んでお泊まりPartyだ!』」
さすが伊達政宗が信頼する部下。アンタも異国語の発音よろしいんですね。
「……で?」
「それで迎えに行きましたが何か」
迎え、という言葉はおかしい。
俺は戦場に居て、そして今からその戦忍の腕を振るおうとしたところだったのだ。
それがいきなり…そう突っ込んできた軍団の色。思い出す鮮やかな青色。
「無理矢理連れて来させたんだろうが!」
「俺ら伊達軍が政宗様が言うことを実行しねえはずねえだろ」
何この口調。
あの真面目な顔に似合わない乱暴な喋り方。
一度は伊達の城に調査に来たことがあったが、こんな片倉は見たことが無かった。
それは自分の腕が情報収集悪いのかと少し衝撃を受けた。忍の長としてどうなの。
しかし伊達の旦那の前では丁寧だったことを思い出し、なんとか自分を少し慰める。
そうしてる内に、片倉は空気の音でわかるほど大きく息を吸った。
「おめえら!次は宴だぜわかってんだろうなぁ!政宗様の大事な客人だ!手ぇ抜くんじゃねーぞ!!」
後ろを振り返り、城全体に聞こえるような声で叫ぶ片倉小十郎。
それに応えるようにどこに隠れていたのか突然現れた城の住人。
うおぉぉ!と雄叫びが上がりビリビリと体に振動が響いた。あまりのことに呆然としてしまう。
この時を待っていたと言わんばかりに煙管を置き、立ち上がる伊達の旦那。

「さあて、Partyと行くか!!」

こんな伊達軍をまとめているのは間違い無くこの独眼竜。
皆に熱気を持たせるに十分な発言で更に続く叫び声に活気を与えた。
「真田の旦那…武田の大将……」
俺は今日帰れないかもしれません。
そんなことを思いながらくらりと揺れた己の体を重力に任せて畳に倒した。



筆頭の言うことは、絶対なんだよ!ってぇことで…





お泊まり








2006.7.29