鳥の鳴く声も爽やかに今日も朝は訪れる。
「う、うまいぃ!佐助!うまいぞ!」
さて、真田幸村は朝から無駄に元気だ。
気だるい様子など一切見せず茶碗を片手に飯について褒め称えている。
こんなに飛ばして一日保つのか、と思うが実際保つのだから凄いものだ。
「はいはい。旦那、落ち着いて食べなよね」
空になった茶碗を受け取り、お櫃から新しく米を盛った。
何故忍びである己がこんなことをしなければならないのか、始めこそはそう思ったりもしたが悲しいことにもう慣れてしまった。
いつだったか、折角女中が作ってくれた飯だったのにあろうことか旦那は「佐助の飯がいい」と言い始め、女中に自分の飯はいらないと告げるほどだった。
すでにそこで自分が料理を作ることは決定されていたのだが。
料理は嫌いでは無い。うまい、と褒められるのも悪く無い。
だが、本職の人間を前に忍の料理がいいと言ってしまわれることは果して良いことなのだろうか。 ごめんね、と調理する彼女達に謝ったことがあったが、「猿飛さまのご飯は美味しゅうございますもの」とにこやかに返されてしまって、こちらも何も返すことできなくなった。
それからだ、旦那の食事は俺が作るようになったのは。
はい、と茶碗を手渡すと卵焼きをおかずに白飯を掻っ込んだ。
「もう。ちゃんと噛んで食べなって」
「うむ!」
返事だけはいつも一人前なんだから。
落ち着けと言っているのに顔に付く米粒は時間と共に増えていっている。
いつまでの子供の姿に、呆れの息を吐かずにはいられない。そこで視線を感じ、顔を上げると口をもごもごさせながら幸村の旦那がこちらをじっと見ていた。
何?そう聞くと旦那は口の中いっぱいのものを無理に飲み込んで喋ろうとする。
喉に詰まることは目に見えていたので湯のみを渡すと、助かったと言わんばかりに喉のしこりを流し込んだ。
「佐助は食べんのか」
「俺はもう幾らも前に済ませました」
旦那の飯を用意するとなると飯なんか食ってる時間が無い。
自身は作っているときに摘んでしまうしかないのだ。
部下である己が先に食べるなんてことは持っての外だとは思うが、その後の旦那の世話や行動に付き合おうとなると後でということは到底無理なのだ。
「…共には食べられぬのか」
共に、なんて無理なことを。
普通はただの忍と食を囲むなんてことは有り得ないことなのに、旦那はそんなことを考えていたのか。
「まあ元より立場違うしねえ……旦那?」
突然黙ってしまった旦那が不思議で、顔を覗き込む。
「よし!某は明日早起きするぞ!!」
「え、なんで」
今の会話から何故其処へ行くのだろう。
わざわざ早く起きる必要なんてあるのか?
やはり、と意気込んだ声が聞こえる。

「うまい者は好きな者と食べるのが一番であるからな!」

「……そうね」
晴れやかな顔で差し出された茶碗はまたしても空で、櫃を開ける。
赤くなった顔を見られないようにわざと俯いてしゃもじにご飯を掬った。



美味しい食事をもっと美味しく、さあ





一緒に食事








2006.4.11