息が白い。
ちらりと盗み見れば隣りも同じく白かった。
「旦那ぁもうこの辺りでいいってば」
「Shut up!おとなしく送られろ」
馬を引きながら伊達政宗は容赦無く言葉を切った。
わざわざ歩かずに乗っていていいのに、と言った言葉は「お前が一緒に乗らないのならいい」というわからないことを言われ早々に却下されている。
馬を引かせてももらえないのは馬か、それとも俺か、どちらを気遣ってなんだろうとぼんやり思う。
奥州の屋敷を出てもうどれだけになるだろう。
武田には秘密での逢瀬の帰り。
一人でいいと言った言葉を聞かずこうして送ってくれている。
嬉しい…かもしれないが素直に喜べない。
だってそんなの

「離れがたくなるだけじゃないの」

ポツリ呟いた事柄を目敏く聞き取って微かに笑った。
「伊達の忍になりゃあいいだけなのによぉ」
「それはダメ」
わかりきったこと。
どれだけ好きだとしてもそれだけは譲れ無いことだった。
伊達の旦那はチッと聞こえるくらいの舌打ちをしてみせて。
俺はどうしようもなく笑う。
「I know。…後少し、いいだろ?」
伺う口調なのに声音は有無を言わせない。
あまりにらしくて否定もろくにできやしなかった。



まだ少しだけ時間が伸びる





帰り道








2006.1.27