家の中には誰もいないことは確認済みだ。
ここにあるのは自身とひとつの大剣。
それ以外は無いはずだ。それでも今一度周りを見渡してからダンテはひっそりと話しかけた。
「今ならいいぞ」
その声を待っていたと言わんばかりに剣はその形状を変化させ、雷を帯びながら人の形に姿を変えた。
鋭いまでに跳ねる黒髪に合わせた黒の神父服。
隠されていた色がゆっくり姿を見せる。
「マスター」
瞳にダンテを映しての第一声が彼の名称を呼んだ。
キツイ目元が嬉しさで緩んでいる。 大きく手を広げ、抱き付いてくる彼をダンテは拒まない。
拒むことが無駄だとわかっているからなのかはわからないが、満足するまでそうさせておいてやっている。
「マスター、寂しかったんだけどー…」
「突然剣に戻れなんて、悪かったな」
普段ダンテの傍を離れることをしないのにそうしたのはジョーからの呼び出しがあったからだ。
やっとマスターに会える、数日の後に事務所に帰って来た彼にダンテが言った言葉が「剣に戻れ」。
人型でいることを許してくれていたはずなのに、と怪訝に思ったが目が冗談で無いことがわかってすぐにそれに従った。
ダンテのコレクションである他の武器と並んで出て行く前と何か違うのを静かに感じ取っていた。
「ダンテ」
一人であるはずの彼を呼ぶ声がした、女だというならわかる、仕事を持ち込んで来る小太りのあの男ならまだわかる。
しかし、それではなく落ち着いた低めの声。
「誰かいなかったか?」
腕を組み、じろりと部屋を見渡す姿は主と酷似していた。
銀の髪、顔の造り、背の丈。
「バージル」
ダンテが漏らした言葉に納得出来た。
スパーダには息子は二人いたはずだ、それが双子のはずであったと。
「誰と会っていた」
「会ってねえ、誰もいねえよ」
溜息を吐きながらのろのろと体を向き直った。
「俺がいるというのに、いい度胸だな?」
バージルがすいとダンテの頬をなぞった。
ダンテは身が反射的に引くのを足に力を入れることでなんとか堪えた。
「俺は自分のものを盗られるのが何より嫌いだ」
目尻を指の先が撫でる。
「誰かに触らせることなどしてみろ、殺すぞ」
本気の目。
「俺はアンタの物になった覚えは無いけどな」
半眼で挑発するようにも見える目で睨み付けるダンテをバージルは口の端だけで笑って見せた。
「いずれそうなる、今かそうでないかだけだ」
唇を親指の腹でなぞり、手は離れて行った。
剣の形をしながら思考ははっきりしていた、バージルは己と同じ気持ちを抱いているのだと。
それからというもの兄がいるときは人型になれない、話すことも叶わない。
今まで簡単にできていたものが困難で仕方が無かった。
自分の想う主が口説かれるのを黙って見ている他無い。
それを埋めるように抱き付く。
ダンテは背に手を廻すわけでもなく、嫌がるわけでも無く、ただ黙って無抵抗でいる。
そんな彼の背中を強く強く抱き締め、ドアから見えたばかりの驚愕が怒りに変わる青の瞳に挑戦的な目を向けてやった。



アラストルという人物がいるのを彼には秘密で、今日も





こっそりと出会う








2006.1.26