ヲトメ
さらさらと筆の走る音が部屋に響く。
それが誰の部屋でもおかしくは無かったが、問題は真田幸村その人の部屋だということ。
真剣そのもので机に向かっている彼は周りの音など聞こえてはいなかった。
「旦那、珍しいじゃない。勉強?」
佐助の声が耳元で聞こえるまでその存在に少しも気付きはしなかった幸村はぎょっと目を剥いた。
そしていきおいよく顔を向ける。
そこに佐助の姿を確認すると顔を赤くして体を飛び上がらせた。
「うおぁあっ!?」
「えっ!?」
声に驚いたのは佐助も同じで、いきなり叫ばれたことに声を上げた。
「さ、佐助っっ!突然入って来るな!」
心の臓の辺りを掴み、焦りながら捲くし立てる幸村に佐助は唖然とする。
「え、でもいつもは…」
「とにかく!今は一人にしてくれ…!」
ぐいぐいと佐助の背を押しながら障子の向こう、部屋の外へ押し出す。
「えっ?えっ?」
無理に追い払うと、勢いよくその戸を閉めた。
いきなり締め出された佐助は呆然と、その薄い戸を見つめるしかできなかった。
一方、なんとか事態を押し隠した幸村は障子を後ろ手に閉めた障子を背に安堵の息を吐いた。
そして気配が外から消えるのを待ってから机の前へと腰を下ろす。
「見られるところだった……この『某と☆佐助の☆愛の日記』」
開いたその紙には一文字一文字心を込めて綴ったものが詰められている。
『今日、佐助とお茶をした。佐助の作ってくれた団子が一番旨い。
手が少し触れ合った、突然のことに慌ててしまった。失敗失敗!
旦那と呼んだ回数全部で24回、昨日よりちょっと多い。』
他人から見れば下らないもの。
しかし幸村はそれをほくほくと頬を染めながら綴ることにまた専念した。
その表情はさながら恋する乙女のものだった。
−終−
ヲトメって、アンタがかよ!
2005.12.16
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