輪の束縛
『指に嵌める輝く輪』
それを渡すのは神聖な儀式だと聞いた。
婚姻の意味がある、異国の文化。
真田幸村は手に箱を持ちながら、恋焦がれる忍を呼び止めた。
「なに?旦那」
くるりと振り返った赤毛の青年の笑顔に、幸村はくらりとなりながら箱を握ることでぐっと堪えた。
「さ、佐助にあげたいものがあってな…!」
「何々、珍しいじゃん、旦那が俺に何かくれるなんて…」
嬉しさと興味で佐助の顔が若干赤めいている。
幸村はこれを逃すまいと覚悟を決めるとその腕を伸ばした。
「こ、これなのだがっ!」
ずいと差し出した綺麗な箱。
佐助はそれを受け取ると、ゆっくりゆっくりと開ける。
「これは……」
輝かしいそれを見る佐助の目は眩しいくらいに輝いて見えた。
「わあ。旦那ありがとう、すごく嬉しい……と言っていた」
「それで?」
「それでって……それで終いである」
渡すことの意味を繋げようとしたのだが、本当に嬉しそうな顔をする佐助に、幸村は言葉を続けることができなかったのだ。
今までこちらが喜ばされることはあっても、あれだけの顔を佐助にさせたことが無かった幸村は見事に固まってしまった。
呆然としている間に佐助は姿も形も無くなってしまっていた。
その失態を聞いて一瞬にしてひんやりと空気が冷えた。
「Indeed……終い、じゃねえだろ」
伊達政宗は呆れて溜息を吐いた。
向き合う形で正座を組み、ひとつひとつ話して聞かせていた幸村はビクリと体を竦ませた。
「俺が折角教えてやったのに、何でちゃんと実行できねえんだよ」
「しかし、某は一生懸命…」
「fool!!一生懸命やろうがやらまいが、結果がそれじゃ意味無いんだよ!」
声を張り上げた政宗に、幸村の頭はただただ下がる。
いつしか伊達政宗は真田幸村と猿飛佐助の恋を応援する立場になっていた。
こうして何か情報をあげても幸村はことごとく失敗の報告をくれる。
これではいつまで経っても二人が恋仲になるなんて有り得ないのではないか。
もう一度溜息を吐くと、幸村はまた大きく頭を下げた。
その武士とは言えない情けない幸村に、怒りを抑えつつ上げかけた腰を深く座りなおした。
「で?佐助はそれ、付けてんのか?」
「付け……ああ、いつも持ってくれてはおる」
少し意外だったのか、目を見開いた政宗。
幸村はそれを見て意味がわからず首を傾げた。
佐助も馬鹿正直に幸村から貰ったものを身につけているという事実に、政宗はにやりと笑う。
「そうか…これは貰ったも同然かもしれねえぞ、幸村」
「ま、まことでござるか!伊達殿!」
唾をごくりと飲み、身を乗り出した幸村に、Yesと伊達政宗は異国の言葉で頷いた。
「いくら主だからって相手は男、嫌いな奴のRingなんて付けるかよ」
「そ、そうだろうか!」
「ああ、しかも嬉しいって言ったことを考えると…Fo、うまく行くかもしんねえな」
相手が意味もわからずそれを受け取ったことが引っかかりはするが、相手も男だ。
男から貰った飾りを身に付けるのにはそれなりに好意が無ければできることではないはずだ。
可能性は無くは無い。
政宗は取り合えずどう意味を伝えるかと頭を悩ませていると、真田はホッと息を漏らした。
「そ、そうか!苦労して取って来てよかった!」
「取ってきた…Hey、どういうことだ真田」
意味のわからない言葉に眉を寄せる。
普通ならかなり良いものでも、買ってきた、と言うところだろう。
まさかとは思うが、
「お前、佐助に何をやった」
「伝説の名盤」
『指に嵌める輝く輪』
確かに間違ってはいないが…。
伊達は自信満々に言い放った真田幸村を見て、ガックリと肩を落とした。
−終−
これはもう駄目だ、うまく行くはずねえ
2005.12.15
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