牢獄




気が付いたら真っ暗な部屋にいた。
目を凝らすとようやく見える小さなろうそくの光。
明かりを頼りに見渡すと、周りはどうやら古い煉瓦造り、部屋にあるはずのドアは見当たらず、その代わりに何本も天井から床へと立っている鉄らしき棒。
これは見たことあるな。
確か、あれだ、囚人が入っている…。鉄格子。
そこでそのさらに向こうに発見する、恐らくこんなことになっている状況を作り出した張本人だ。
腕を組んでこちらを見ている。
「バージル…おま」
立ち上がって胸倉でも掴んでやろうかと思った行動は未遂に終わる。
ふいのことに、あっけなく体は元の位置へと舞い戻ってしまった。
何かに体が引かれた。見つけた原因に思わず目を張る。
鎖。それなりの長さを持った、頑丈そうな鎖が床から足へと繋がっている。
悪趣味…。顔をしかめると、ククと格子の向こう側にいるバージルが笑った。
「出たいか、ダンテ」
シャラと手の中の物を見せつけた。
錆びた銀が輪に連なっている。
鍵か、と呟くとバージルはまた笑った。
しかし別段慌てはしなかった。鎖は強くちぎれそうに無いのは引っ張ってわかった。
鍵が無ければこの足枷を取ることも、ましてや格子から出ることもムリだろう。
残念ながらこちらも武器は持っていない。
しかし、丸腰というわけでもなかった。
体の力を一点に集中し、開放。空間が歪む。
バージルはそれを見て、目を見開いた。
「魔人化…その手があったか…!」
一瞬で人ならざる姿になったダンテを見て、口惜しいと言わんばかりに顔を歪める。
「お前馬鹿だろ。」
魔人になればこんな鎖なんてなんて軽い。
双子で同じ力を持つバージルならわかっていて当然のことのはずだ。
「下になる人間として、それはしてはならないだろう!」
「誰が、下だ」
格子越しに嘆くバージルを横目に、鎖を引き千切る。
それは簡単に千切れ、枷になっていたそれはあっさり無くなってしまった。
鎖はチェーンになり武器になる。
それを振って、力を込めれば鉄格子はまるで木の枝のように綺麗に切れた。
これで鍵があろうが無かろうが、縛るものは何も無い。
バージルが用意した足枷も、鉄格子も、牢も、一瞬の内に消えてなくなった。
ざまあみろってなもんだ。
力を抜いて、魔人から人に戻った。
ちょっとしたゴミの中でバージルと突っ立っている。
バージルは呆然と、脆くも崩れ去った夢の中にいるように動けない。
あの憎たらしい笑みが懐かしいくらいだ。
そんな彼を横目に、家に帰るために通り過ぎた。
どこかはわからなかったが、別に構いやしなかった。
「くだらねえことに付き合わせやがって」
溜息を吐くと、帰路を急いだ。







   −終−







これを考えるのに、三日間寝なかったというのに…!




2005.12.10