エロス




大胆な女は好きだ。
性欲に駆られた目で誘われて悪い気を起こさない奴はいないだろう。

なのに。



「何見てんだよ」

じとりと睨まれ、慌てて何でも無いと首を振った。
何で俺はコイツに欲情してんだろ。
戦場ならいざ知らず、逃げる相手を追う主義じゃない。
そんなに相手に飢えているわけでも無えし。
そんなことするくらいなら来るものは美味しく頂いて、という方が何十倍もマシだとは思わないか?
それなのに一番嫌われてるという自覚のある男に欲情しちまってる、なんて。

武道のためだけにある服を馬鹿みたいにきっちり合わせ、長い髪をてっぺんで結わえている。
その格好からどう考えても色を感じることなんてできやしねぇのに。
猫を思わせる目だとか小さめの唇だとか、泣き黒子だとか、ひとつひとつは薄いはずなのにバランスのせいか妙に色香があって。
動きにしてもそう、長い指がゆらりと揺れ、足が地を蹴り宙を舞う。
どれもしなやかでひとつひとつが繋がっているような動作。

まるで、誘って、いるような。


「だから、なんだよ?」

いつの間にこんなに距離を詰めていたのか触れ合うことができそうなほど間近で、眠そうな瞳をより眠そうにして嫌そうに凌統が聞く。
見抜かれた、と
咄嗟にカッと血が沸騰した。
「いや、」
「言いたいことがあるなら言ったらどうなんだい?」
腕を組んでこちらを見上げる姿は挑発のよう。
コイツにとっての挑発と、俺にとっての…ではまるで別だ。
そう、まるで、床に誘うような。
「遠慮するなんてアンタには一番似合わないことじゃないか」
その言葉にくらりと目の前が揺れるような気がした。


マズイ。

自分でもそうわかっている。理解はしてるんだ。
このまま、コイツと向き合いながら喋ってると、マズイ。
「甘寧?調子悪いのか?」
あまりに返答しない俺に流石に心配になったのか凌統が眉を曲げ、覗き込んでくる。
「甘寧?」

ああ、もう、駄目だ。

「ちょ!オイ!甘ね…っ!」

「凌統。お前が悪い」

考えたってわかるわけ無え。
欲情してるもんはしてるんだ、しょうがねえじゃねえか。
叫びまくる凌統を担いで、一番近い空き部屋に転がり込む。
あとは口を塞ぎ、服を剥いで、それから…







   −終−






そんなにエロいのが悪い。




2005.10.10