約束の証




月明かりの中、銀の髪を輝かせながら二人は寄り添い合っている。
「ダンテ、結婚しよう」
その言葉にダンテと呼ばれた男は長い睫毛を揺らし伏せていた目を見開き、じっと相手を見上げた。
目には少しの涙、頬は赤く染まっている。
「嬉しい、バージル…その言葉を待ってたんだ」
いじらしいその姿に、バージルはダンテの手を取りそっと握りこむ。
その掌には赤くきらめくひとつの宝石。
「これが誓いのアミュレットだ…受け取れ」
キラキラと輝くそれは、安物なんかでは決して表せない色合いを持っている。
独特の色に目を奪われたダンテは、目の前の首に同じ物が煌めいているのを見て、嬉しそうに頷く。
ありがとう、と小さく呟いた彼に、バージルは薄く微笑み、震えている唇にそっと近づけた。



「……と、いうような約束の証に二人は揃いのアミュレットを」
「違うだろ!!どんな嘘吐いてるんだアンタは!」
おとなしく聞いていた、いや聞かされていたダンテはあまりの作り話についに切れた。
いきおいよく叩いたテーブルはグラスを鳴らしガタンと揺れたが、気にしている場合ではない。
ダンテは首から下げているアミュレットをいきおいよく掴む。
「これは!アンタと俺が!母さんから貰ったもので…!」
「そう、俺たちは親公認の仲だったな」
思い出にふけるようにバージルは明後日の方を見やる。
遠い目をしている兄に、弟がまたひとつ青筋を立てる。
「どこをどう取ってそんな結論に至るんだ!」
耳元で大声で叫ぶダンテに、突然ふいと視線を向けた。
その瞳が何を考えているのかわからず、それよりも顔の近さにダンテは思わず身を引いてしまう。
バージルは手を伸ばし、ダンテの胸元で光る赤い宝石に触れた。
自分のものと引き合わせ裏を合わせると、カチリと軽い音を立て、ふたつのアミュレットは背中合わせに重なった。
何をする気かわからず、ダンテは首を傾げる。
その様子を見て、バージルは真剣な瞳を返した。
「互いに離れず、その身を添い遂げるという意味でこの二つのアミュレットは一つにすることが…」
「そんな深い意味なんかあるわけ無いだろ!双子だからだ!」
おとなしくなった数秒が嘘のようにダンテはまた大声を上げた。
そしてその勢いを持って、合わせられたアミュレットを無理矢理引きちぎる。
「照れるな照れるな」
「ホントもう、ぶっ殺すぞテメェ!!!」
本気でぶち切れているダンテをバージルはさらりと交わしている。
それとなく嬉しそうに笑う兄に、ダンテは苛つきを隠すことはしなかった。




やかましい部屋の片隅で、椅子をギシギシと揺さぶりながら一人が呟く。
「いいなあ…」
実は話のきっかけを出したアラストル。
今はいないものとして二人に放っておかれているが、自分を主張してとばっちりを食らうことを避けているようだ。
「……俺もマスターとお揃いほしいなー」
バージルの話を聞いて羨ましげに、対の宝石を見やった。
ペアリングなんてどうだろう、買ってきたら喜ぶかな。
ふと浮かんだアイデアに魔剣は頬をにんまり緩めたが、もし実行すれば命の無いことまでは理解はしていないようだった。







   −終−







それは誓いという約束の証である




2005.11.25