もっと
縛り付けてどこへも行けないように、もっと、もっと、抜けられないくらいはまり込むといい。
「佐助、愛しておる」
純情で愛しい主がこの骨と皮で出来た身体を抱き締めながら笑む。
優しい抱擁に抱かれながら、俺は静かに笑むのを旦那は気付きやしない。
素直な我が君は疑うことを知らない。
こちらの心の内を知るよしも無い。
恥ずかしがるフリ、鬱陶しいと拒むフリ、喜ぶフリ怒るフリ。
何でもやる、使えるものは何でも使う。
旦那、俺はあなたを掴まえておくためならば。
忍らしくその身を偽って。
そんな佐助をあんたに見せてあげようじゃないか。
旦那の好きな、猿飛佐助。
ここにあるよ、愛して御覧よ。
そうして離せはしないようにゆっくりと縛り付ける。
望ませるようけしかけたのはあんただろう、真田幸村。
もっと貪欲になれと思う。
多くを望み、我が儘になってみろ。
そうは思っても所詮は立場が先に立つので簡単にそうかと言えるものではない。
仕事のために生き、そして死ぬ。
わかってはいながらもそれはとても寂しく思えた。
好きだと告げたのはもういくら前か。
身の内にすくう激情を押さえられずつい告げてしまった。
佐助は見開き、うろうろと彷徨わせてから頼りなさげに笑んだ。
断ってもいいものだろうにそうしなかった。
それは主に気を使っているのかもと考えなかったわけでは無く、ただそれでも構わないと思ったからだ。
付け込む隙があればそうする、そんな非道なことが頭を占めた。
今は無理でも愛することに直に慣れる。
時間はまだまだあるのだ、それくらい構わないだろう。
もっと、もっと、考え悩め、そうすれば幸村しか見えなくなる。
逃がしはしない、佐助。
「「もっとずっと、手に入れたからには逃がしはしない」」
−終−
互いに縛りつけ、残るは愛だけ
2005.11.24
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