朝起きたら体中はギシギシ悲鳴を上げていて、そこらじゅうが痛かった。
身支度をして起こした相手はそれはもう清々しい顔をしていて。
悔しいから、ちょっとした仕返し。



「旦那は本当に、炎みたいな人だね」

庭で双槍の手入れを丹念に施し、戦の準備をしている真田の旦那。
その様子を後ろから眺めながら壁に凭れ掛かって話しかける。
真田の旦那は磨く動きを休めることなく、強く「うむ!」と頷いた。
「お館様のように、熱い男になりたいとは思っておる」
憧れのお館様は赤の色を称えるだけあって、炎のように熱い男。
声に尊敬の念を含ませて旦那は生き生きした声を上げる。
「違う違う」
否定すると、その後ろ姿が首を傾げた。
ふふ、と笑ってやる。
「夜のことだよ」
夜、という言葉にビクリと反応して、振り返ろうとした後ろに、忍らしくすっと立つ。


「執拗に熱くて、激しいってね」


耳元に吐息と共に囁いた。
「さ、さ、佐助!!」
真っ赤にして、口を魚のようにパクパクとさせる旦那。
それこそ夜の様子を微塵も感じさせない純な反応である。
「さーってお仕事お仕事」
何か言い出す前に、くるりと背を向けてその場から消える。
困ったような叫び声で名を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、行ってやる気は無い。



悔しいから。
だから、ちょっとした仕返し。







   −終−







炎のような男が、恋人です。




2005.11.07