震えた声
普段、飄々としていて内を晒さない佐助が、妙に重い雰囲気を持って立っている。
何か良く無いことでもあったのか。
「どうした佐助」
聞いても、ただ頭を垂れて立っているだけ。
何も言おうともせず、顔さえも見せてはくれない。
見る限り怪我をしているわけでも無さそうだが、まさか病なんてこと。
そう考えると、どんどん心配になってくる。
「ごめん……」
今一度声を掻けようと思っていたとき、佐助の声に遮られた。
一言、謝りの言葉を述べる忍。
意味がわからず首を傾げる。
こちらが彼に詫びることはあるにしろ、謝られるなんてことは無い。
「旦那…旦那、ごめん」
擦り切れるほどの掠れた薄い声で、何でも何度も。
顔が見えない分悪い気持ちはどんどん増えていく。
「忍として最低で、役に立たなくてごめん」
まさかとは思うが。
真田の忍をやめるということでは無かろうか。
佐助がいなくなる、ということは頭の中に一欠けらも存在していなかった分だけ真っ白になっていく。
仕えたい相手ができたというのだろうか?
己以外に従いたいという者が……世にいるのだろうか。
血の気が引く、というものが実感できている。
「さす…」
名を呼ぼうとしたとき、今まで地を見ていた二つの目とかち合う。
薄く赤い茶の瞳がゆらゆらと揺れてどきりと胸が鳴った。
「すき、すき、すきだ……俺、アンタが好きだよ」
眉を寄せ、苦しそうな顔の中でも笑顔を見せる佐助。
もう一度、ごめんと頭を下げる。
聞いたことも無いような、忍の震えた声で好きだと告げる。
それは言外に恋と呼ばれることを言っていて、しかし考えるより先に体が動いた。
ただ消えないように強く閉じ込めるしか、今はできなかった。
−終−
すきだよ、あんたが
2005.11.07
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