ノーカウント




最近は当たりも良く…と言っていいのかわからないが、裏の仕事ばかりだ。
とにかく金が要る。
元々愛銃や剣なんかに金を掛けていてリッチな生活をしていたわけじゃない。
それでも一人のときは生きていけた。
それなりの物は食べていたし、杜撰でも満足できる暮らしをしていたつもりだ。
ただ、今はもう一人じゃない。
双子の兄、バージルが戻ってきた生活、二人暮らし。
魔界に関わってきた兄をまた、まざまざと悪魔に近づけるわけにも行かず俺だけが働いている状態だ。
二人分の金を稼がなくてはならなくなった俺は、今まで以上に真面目で何倍もの仕事を請けるようになった。
夜、何件も掛け持ちで裏の仕事をこなしたりもする。
昔は断ってきたような仕事も嫌々ながらもOKを出す。
しかし、そうなるといくら俺でも疲れは出てくるわけで。

空が明るんできた頃、ふらふらになって帰って来て、その足でシャワーへ向かったのだ。
連日の疲れも出ているからか、壁に何度も頭をぶつけながらもなんとかシャワーに当たった。
半分霞掛かった思考でなんとか終えると、後はベッドに直行するだけ。
乱暴にタオルを洗濯機に放り込むと、ズボンだけ履いてバスルームを出た、そこで嫌なものを見た。
それは柱に寄りかかるようにして腕を組みこちらを顰めた顔で見ている一人の人物。
一瞬俺の姿を見て、喉を鳴らしたように見えたのは気のせいだ。
ただでさえ眠さで苛々するのに、あろうことかグチグチと文句を言ってのける。
この疲れの原因ともいえる唯一人の兄、バージルだ。
「退けよ」
「まず髪を拭け、服を着ろ」
コイツのお小言はいつものことだし、今更という感じはする。
でも今、ハイハイなんて聞いていられる余裕は無い。
「あーもー俺は眠いんだって」
頭をガシガシと掻くと水滴がパタパタと床に落ちる。
バージルの横を擦り抜けようとすると、体で道を阻まれた。
「そのままでは風邪を引くと言っているだろう」
あくまで俺をベッドに行かすつもりは無いらしい。
「うっせ。風邪を引こうが引かまいが、どうでもいいだろ」
「良く無い、大体面倒を見るのは誰と思っているんだ」
「俺は頼んで無ぇ」
いつからお前は俺の親になった。
世話を焼かれる年でも無いんだ、過保護過ぎるだろう。
「何を言うか。俺はお前を愛しているから言ってるんだぞ」
コホンとわざとらしく咳をして、愛とかぬかす。
あぁ、そういえばお前は可笑しい脳味噌を持って戻ってきたんだったな。
今はどうでもいい。
とにかく、眠い。眠さで頭がくらくらする。
体は重いし、目蓋は今にも落ちそうになる。
ただ静かに寝かせてくれないのはこの小うるさい男と、ベッドが無いせいだ。
「どうしたらそのウルせぇ口は黙ってくれんのかね」
自分から流れ出る溜息さえも重い。
「そこまで言うならお前がキスで塞げばいいだろう」
フンと鼻で笑うバージル。
あぁ、そうか。そんなことでいいのか。
それをすりゃあアンタは諦めてくれんのか!



「お・や・す・み!バージル!!」

口元を押さえて呆然としているバージルを置いて自分の部屋へ足早に駆け込むといきおいよくドアを閉めた。
合っても無くても良いような鍵を掛けてそのままベッドにダイブを決め込む。
真っ白なシーツに沈むと、意識はすぅと吸い込まれていった。
その後、ドアの向こうで俺の名前を必死に呼んでるバージルの声を聞いたような気がした。
また銃を発砲した気がしたが、それもはっきりわからない。
もう、どうでもいい。
何でもいいからとにかく眠らせてくれ。





「ダンテ、昨夜のことだが」
「あ?昨日?何だよ」


……ノーカウント。







   −終−







なんだよ、なんだって?(すっきりした顔で)




2005.11.04