染まれ




風が気持ちいい。
木の上で昼寝をするのは好きだった。
ゆったり目を閉じていると「佐助!」と大きく呼ばれた。

「なぁなぁ佐助。聞いておるか?」
「聞いてますよ、ちゃあんと」

あまりにも気の抜けた返事ばかり返していたからか、下を見下ろすと真田の旦那が口を尖らせていた。
木にもたれるように座り時々俺を確かめるように木を見上げる。
「だからな?お主も色を変えるべきなのだ」
先程から旦那が言っているのはコレ。
あまりにもくだらな過ぎて呆れてしまった。
「お館さまも赤、某も赤、兵も赤、なのに佐助。お前だけが違うだろう」
「忍だもん仕方ないでしょうが」
赤だと目立って仕方ない。
大体その色でどこに忍んでいろと言うのか。
火の中か?それとも武田軍の中に忍んで?冗談、意味が無い。
「今が草色なのだから、そうそう変わらんだろう」
いやいや、変わりますって。
城の潜入より戦場や森での仕事が得意で、それに合わせた結果がこの色だ。
これが赤になる自分を想像して、うげぇと舌を出した。
「なぁなぁ佐助。聞いておるか?」
「聞いてますよ、ちゃあんと」
何回目かの同じ言葉に、同じように返事を返す。
「なぁ。良いだろう?」
「駄目ですって、よく考えてくださいよ。俺、忍よ?」
任務のときどうするの、と続ける。
見上げてくる旦那の目はきょとんと丸くなっていた。
それから、何だそんなことかと呟いた。


「大丈夫、佐助はずっと某の隣に居れば良いのだし」


は?
当然のようにそう言って、誇らしげに笑顔を見せる。
思わず身を乗り出していたにも関わらず、体の力が抜けてしまった。



「うわわわ!」

「わぁあ!佐助!佐助大丈夫か!!」



落ちそうになる真田忍隊の長と、オタオタしながら両手を伸ばす、向かうところ敵無しの真田幸村。
その間抜けな図は武田軍兵に目撃されていたことに二人は気付いていない。







   −終−






自分が言ってることわかってんの?




2005.10.16