サニーデイズ




太陽きらめく初夏の空。
雲はゆっくり流れ日差しは暑いぐらいの太陽を和らげている。
「いーい天気だ」
佐助は空を翳してひとつ大きく伸びをした。
「最高の日和だな……アレさえ無ければ」
呆れた口調で見やったのは水をバシャバシャと子供のように波立てるふたり。
「幸村ぁ!まだまだ甘いぞおぉ!!」
「うおぉぉお!お館さまぁ!」
甲斐の虎と恐れられている武田信玄とその忠実な部下真田幸村。
「まったく、いつも元気が良すぎるほど良いんだから」
今日は暑い!そう言い切られて何かと問う前に手を引かれ連れて行かれたのが川原。
そして急遽二人によって川遊び大会などというものが行われることになった。
暑い日に熱い二人によるアツイ川遊びを見せられている(強制的に)
佐助は楽しんでいる主を見て溜め息を吐いた。
武器を持っていない武将といえば格好の的。
いつ狙われるかわからないのだ。
それをわかっていてまで繰り出す二人は大物だと心底そう思う。
木陰でそんなことをぼんやりと考えながら二人に声を投げつけた。
「お二方ー…あまり遠く行かないでねー」
まぁ。心配なんかしても何も起こらないだろうけど。
こんな日だし、俺も少し気を抜いたって…


「佐助っ!幸村が!」


そう思った矢先がこれだ。
先程まで見えていた幸村の姿が消えていた。
溺れているのか!
川の危険は突然その深さが変わること、そんなこと知っているくせに何でこうなるんだ。
「ちょっともー!」
岩へ岩へ飛び移り姿が消える前に見た辺りを覗く。
透き通っている水とは言ってもそれなりの深さがあれば底なんて見えるはずが無い。
流れがキツイわけでは無いし、流されているわけでも無さそうだ。 これは潜るしか無いか。
息を多めに吸い込んで鼻先を水面に近づけた。
「えっ」




何が起こったのか一瞬わからなかった。
苦しくなった息を吐き出すと共に見た世界では、武田の大将は豪快に笑っていて。
更に溺れたはずの幸村の旦那までも腰に手を当てて楽しそうにしていた。
どういうことだ。
突然冷えた体と頭にゆっくり先程の光景が戻ってきた。
旦那が溺れて、助けようと思ったら…
水中から出てきた手に頭を掴まれそのまま引き摺り落とされた。
と・いうことはつまり。
「引っ掛かったな佐助!」
自分の中で答えを出す前に主犯自ら正解を有難う。
頬が引きつってしまうのは俺の心が狭いからなのか。
「旦那ッ!アンタねえ!!」
「見ているだけなんかよりこちらの方が気持ち良いだろう?」
暑いからなんとかしてと頼んだ覚えは無いんだけど。
…そうも思ったがあまりにも晴れやかな笑顔を向けてくる旦那にそんな言葉は口を突かなかった。
鍛錬不足で無ければこんなことになって無かっただろうし。
まぁ。暑かったといえば暑かったし。
それに、別に今、気持ち良く無いわけでは無いし。
「………そうね」
と返すと旦那は更に笑顔を深くして笑った。
何か照れるんですけど。
それを読んだかのように、大将がニヤリと笑ったのを目の端で捉えて口を歪ませてしまう。
「さて。佐助も揃ったことだし、遊ぶかのう!」
大将は笑いを含みながら高らかに宣言し、幸村はおぉ!と意気込んだ。
濡れて額当てにまで落ちてきた髪を撫で付ける。



ま。いいかもしんないね。
こんな日和、だしね。







   −終−






あぁ、こんなにも。太陽が近いね!




2005.10.15