嫉妬






浦原商店、もう夜も遅く二人でくだらない話をしていた。
泊まると決めてのことなので門限も問題は無い。
浦原は温くなっただろう茶を啜って毎週と同じ台詞をにこやかに切り出す。
「ねー。明日のことっスけど」
「明日はダメ」
来る言葉はわかっていたので返答は切るように早くしてしまった。
アイツは帽子が無いことで露わになったふたつの翠は少し大きく開く。
「何でですか?」
「啓吾達と買い物」
学校で何日前からも言われていたことだ。
タイミング悪く言うのが遅くなってしまったが。
「断ってくださいよ」
あっさりとそんな無礼なこを言い放つ浦原に溜息が漏れる。
「あのなぁ。俺はいつもアンタのために時間裂いてんの。いいじゃねーかたまには」
「えー…」
不満そうに呟く。
そんな声を出せばいつもなら許してやるところだが今日は違う。
譲らない。
「とにかくダメ。明日はダメ」
今までどれだけも妥協していい大人の我侭を叶えて来たのだ。
一日、二日くらい許してくれてもいいものだと思う。
「そうっスか…」
溜息を吐いてから
「じゃあ仕方ないっスよね」
と諦めの言葉を吐いた。
もっと渋るかと思いきや案外簡単に引いたのでストンと力が抜けた。
まぁ、結果的にはこうなることを望んでいたのでいいか、と頭を掻く。
浦原は、よっと掛け声に合わせて腰を上げた。
どうしたと言うんだと彼を見上げる。


「ちょっと彼ら殺しに行ってきます」


「はっ!?」
思わぬ言葉に耳を疑ってしまう。
「え、だから殺しに」
まるでちょっとそこまで、とでも言うようにさらりと口にする浦原。
言っていることは非常に物騒だ。
「な、な、何言ってやがんだアンタ」
どもってしまう言葉をなんとか搾り出して、紡ぐ。
「だって黒崎サン構ってくれないなら仕方ないでショ」
まるでこちらが悪いみたいではないか。
何でこの男は極端なのだ。
手にはあの怪しげな杖、に見える中身は妖刀。
いつもの帽子で色素の薄い髪を隠してしまって、息を吐く。
「んじゃちょっと行ってきますかね」
戸に続く障子をカラと引いた。
濃い深緑の羽織が目の端に映る。
「待て」
小さすぎた言葉は浦原には聞こえているのかいないのか。
変化を見せず、真っ直ぐその瞳は前を向いている。

「待て」

「どうしました?」
手を伸ばして掴んだ羽織。
小さな力で進行を邪魔された浦原は疑問符を浮かべる。
子供のようにただ不思議そうに首を傾げる。
「一緒にいる」
搾り出すように声をなんとか出す。
浦原は帽子の影で目を瞬かせた。



「明日、いるから。だから行くな」


んじゃここにいましょ。
くるりと反転してまた元の定位置に着いた。
重い重い溜息を落として、つい恨めしく浦原を睨んでしまう。
そんなこちらの気持ちなど気にも留めてないように信じられないくらいの笑顔を浮かべている。
結局その顔には弱いんだ、俺は。
もう一度大きな息を吐きながら緑茶を啜った。



大変な奴と付き合ってんなぁ俺も。















   −終−






いらないものは排除するべし



2005.06.20